赤字融資もいとわない。なぜ銀行はベンチャーに接近し始めたのか

早期に有望企業を囲い込み。新しい形の「産業の黒子」を模索

 銀行とベンチャー企業の関係が変わってきている。ベンチャー企業を中長期で支援する姿勢を前面に打ち出し、時には赤字でも融資をいとわないようになった。「産業の黒子」といわれてきた銀行が日本の産業の活性化のために目先の利益にとらわれない取り組みを継続することの意味は重い。

 「激論を重ね、時には衝突もしたが、振り返れば、規模の拡大や人材採用などベンチャーならではの相談に乗ってもらった」。ロボットハンドの開発を手がけるスキューズ(京都市南区)の清水三希夫社長は銀行の「助言力」をこう評する。

 開発専業にするかメンテナンスも含めて川上から川下まで手がけるのかなど、ビジネスモデルの根源的なところまで意見を交わし合う。「メガバンクは失敗したベンチャー企業をたくさん見ている。我々の知らない世界を知っている」。

 銀行がベンチャー企業育成を強化している背景には早期に有望企業を囲い込むことで中長期の取引につなげる狙いがある。有望企業を見極める「目利き」は容易ではないが専門部署を設置したり、優れた技術やサービスを持つベンチャー企業を表彰するコンテストを開催したり、躍起だ。

 銀行の思惑とは別に、ベンチャー企業側も「メガバンクの看板」の恩恵は大きい。

 東京工業大学発のベンチャーで配管点検ロボットのハイボット(東京都品川区)の北野菜穂管理部マネジャーは、「新規取引などでの信用力が格段に増した」と強調する。三菱東京UFJ銀行が開催したコンテストでの受賞を機に同行に取引を一本化。広瀬茂男ハイボット会長は「技術はあった。ビジネスの拡大に本腰を入れたい」と社内の体制整備を進める。

 金融とITを融合したサービスの普及も両者間の距離を縮める。三井住友銀行には多くのベンチャー企業が訪れる。

 あるソフトウエア会社の社長は「3日も空けずに訪問することもある」と語る。銀行がベンチャー企業と膝詰めで、一緒に新サービスを模索する姿はこれまでの旧態依然とした銀行像を拭い去りつつある。

 新興市場の新規上場数は足元は右肩上がり。バイオ銘柄などは業績に関係なく、上げ底感がある。「ベンチャーバブル」の感は強いが、融資の現場も同じだ。銀行にしてみれば、国内の預貸業務が伸び悩む中、有望な資金供給先でもある。あるベンチャー関係者は「いくつかの金融機関から融資の打診があったが、中にはケタが一つ大きい提示があり驚いた」と語る。
(文=栗下直也)

日刊工業新聞2016年12月6日

栗下 直也

栗下 直也
12月18日
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ベンチャー企業育成は政府が重点課題に挙げながらも、諸外国に比べて支援体制の未整備を指摘する声もある。メガバンクの担当者は、「正直、草の根のベンチャー企業支援はビジネスとしてうまみは少ない。メガバンクの仕事にしては地味だが、日本の産業にとって重要な仕事」としている。

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