小粒な税制改正。総選挙見据え「働き方改革」に踏み込まず

賃上げと消費喚起を起点とする経済好循環、実現のハードル高く

 自民、公明両党が8日にもまとめる2017年度与党税制改正大綱がほぼ固まった。焦点だった配偶者控除の廃止を見送るなど、政権が掲げる「働き方改革」は踏み込み不足の感を否めない。賃上げを決めた中小企業への法人減税措置も効果は見通しにくい。賃上げと消費喚起を起点とする経済好循環を目指したわりには“小粒”改正にとどまったといえる。17年の世界経済の先行き不安がくすぶる中、安倍政権の経済政策「アベノミクス」は転機を迎えつつある。

 有権者の“痛み”を伴う改正には踏み込まなかった。働く女性の障害との指摘もある配偶者控除は、当初検討していた廃止を見送る。配偶者控除を夫婦控除に改め、妻(夫が世帯主の場合)の収入によらず控除を一定にする案を検討したが、現行の配偶者控除世帯の中に増税となる場合が少なくないためだ。
 
 17年の衆院解散・総選挙の可能性も取りざたされる中、与党が目指した“所得税大改革”への第一歩は小幅な足取りとなった。政府税制調査会(首相の諮問機関)のある委員も「(配偶者控除の問題は)国民・政治の判断を待つのが現実的だ」との認識を示す。

 与党は次善の策として17年度改正で配偶者控除の対象を拡大。妻の年収が103万円以下なら夫の所得税が減額される控除対象の“壁”を150万円以下に引き上げる。だが“壁”は依然残り、パートタイマーの労働時間を延長する程度の効果しか望めそうにない。

待機児童問題、企業の対応どこまで?


 政権は働き方改革を税制改正の柱に掲げ、企業が無認可で運営する「企業主導型保育所」の税制も見直す。固定資産税や施設取得時の不動産取得税を半減し、待機児童問題に対処するという。だが企業がどこまで対応するかは未知数だ。

 働き方改革は、女性の活躍と所得増を促し、長く停滞する個人消費を喚起する狙いがある。所得増で拡大した消費が企業収益の改善と設備投資の増加をもたらし、増産と一段の収益改善がさらなる賃上げに結びつく「経済の好循環」を早期に実現する必要がある。

 だが働き方改革が踏み込み不足な中、好循環実現への道のりは険しい。所得拡大促進税制の拡充といった対策も消費喚起の“決定打”とは表現しにくい。

 13年度に創設した所得拡大促進税制は、賃上げを実施した企業が賃上げ額の10%を法人税から差し引ける税制で、17年度改正では中小企業が2%以上の賃上げを決めれば22%を差し引ける。2%未満の賃上げなら中小は現行の10%のままで、大手企業は対象外だ。

 安倍晋三首相は4年目となる“官製春闘”でベースアップ(ベア)を含む意欲的な賃上げを経済界に求める。この流れを中小にも幅広く波及させたい意向だが、中小は人材不足対策という後ろ向きの賃上げとなる企業が多い。増益を賃上げに還元する大手企業の春闘とは構図が異なり、無理な賃上げは中小の収益を圧迫しかねない。

 与党は17年度税制改正で多様な中小支援に動くものの、中小がどこまで呼応できるかは不透明だ。設備投資などでも優遇策を講じるものの、賃上げ後に積極投資に向かう中小は限られるとみられる。

 与党は、中小が医療やIoT(モノのインターネット)など成長分野に設備投資した場合、投資額の一定割合を法人税から控除する「地域未来投資促進税制」を17年度に創設する。さらに中小が新規導入する160万円以上の製造装置にかかる固定資産税を3年間半減する特例措置も拡充。中小製造業に適用していた特例措置をサービス業にも広げる。
      

日刊工業新聞2016年12月6日「深層断面」から抜粋

日刊工業新聞 記者

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12月07日
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なぜ個人消費は停滞しているのか。その本筋を見つめ直す必要がある。財政制度等審議会は17年度予算編成に関する提言の中で「財政や社会保障の持続可能性に対する信頼を回復し、家計や企業の将来不安を払拭することが、結果として個人消費や設備投資の回復、ひいては経済の好循環へとつながっていく」と訴える。賃上げだけに頼り、将来不安がいつまで続けば家計の節約志向は解消されない。加えて0%台とされる日本の低い潜在成長率を向上させなければ将来に展望を描けず、経済好循環の実現は遠のく。政権は20年度に国・地方の基礎的財政収支黒字化の目標を掲げる。だが毎年度3%の名目成長率という高いハードルをクリアすることが前提で、実現は極めて難しい。16年度の国の税収は当初見込み比で7年ぶりに下方修正される見通しだ。企業の収益増と税収増に依存した財政健全化計画とアベノミクスは正念場を迎えた。(日刊工業新聞経済部・神崎正樹)

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