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小型固体燃料ロケット、打ち上げ能力3割増しで来月打ち上げ

JAXAの「イプシロン」2号機、コスト50億円も抑制
小型固体燃料ロケット、打ち上げ能力3割増しで来月打ち上げ

来月20日に「イプシロン」2号機を内之浦宇宙空間観測所から打ち上げる(イメージ=JAXA提供)

 宇宙航空研究開発機構(JAXA)は12月20日に小型固体燃料ロケット「イプシロン」2号機を内之浦宇宙空間観測所(鹿児島県肝付町)から打ち上げる。機体と運用、設備からなる打ち上げシステム全体を1号機より効率化した。ただ、機能を強化しても打ち上げコストは同等に抑えることに成功した。効率的で低コストなロケット技術の開発が進むことで国際競争力の向上が期待される。

 イプシロンシリーズでは、500キログラム程度の小型衛星の打ち上げを想定する。JAXAが公募する科学衛星や探査機などの小型衛星のほか、今後は海外の衛星打ち上げも視野に入れる。

 今回の2号機は、地球付近の宇宙空間の高エネルギー粒子を調べる科学衛星「ジオスペース探査衛星ERG(エルグ)」を搭載する。

 2号機は、打ち上げ能力を向上するために、従来の40%増の15トンに推進薬量を増やした2段モーターをフェアリング(ロケットの先頭部)外に設置。太陽同期軌道への衛星の打ち上げ能力を30%増の590キログラムに向上した。

 さらにフェアリング内のスペースが空いたことで、衛星の収納場所の高さを10%増の5・4メートルにできた。

 2号機では新しい部品の導入にも挑戦。ロケットの火薬に火をつける機構である「電力シーケンス分配器(PSDB)」を機械式リレーから半導体リレーに置き換え、およそ半分の10・6キログラムに軽量化した。

 イプシロンロケットプロジェクトの責任者であるJAXAの森田泰弘教授は、「宇宙開発で新しい部品を使うことは怖いが、そこに挑戦した。ロケットのコストを下げるには民生部品などに置き換える必要がある」と今後の宇宙開発につながる試みを強調した。

 2号機は9月から射場での作業を始めており、点検作業を実施中。またイプシロンは20年に打ち上げ予定の新型基幹ロケット「H3」との部品の共通化など、相乗効果を狙った開発を進めている。
(文=冨井哲雄)

(2段モーターの真空地上燃焼試験=JAXA提供)
日刊工業新聞2016年11月28日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
イプシロンの開発費は2、3号機合わせて60億円、2号機の打ち上げ費用は安全管理にかかる費用を含め50億円。森田教授は、「打ち上げコストが30億円を切るような機体の製造を5年程度で実現できるのではないか」と語っている。開発にはIHIエアロスペース、川崎重工業、三菱重工業、NECなどが携わっている。 (日刊工業新聞科学技術部・冨井哲雄)

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