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成長依存の財政健全化に危うさ

17年度予算編成の基本方針、月末にも決定
成長依存の財政健全化に危うさ

首相官邸ホームページより

 政府は月末にも2017年度予算編成の基本方針を閣議決定する。財政健全化に留意する姿勢を示しながらも、景気に配慮した財政政策の重要性をにじませる内容となる見通しだ。「経済成長なくして財政健全化なし」とした前年度の基本方針を踏襲し、景気の腰折れ回避に効果的な施策に予算を重点配分する方針。ただ世界経済の先行き不透明感が強まる中、歳出削減よりも経済成長による税収増に依存する財政健全化には危うさが残る。

 政府は25日にも開く経済財政諮問会議(議長=安倍晋三首相)に17年度予算編成の基本方針を示し、月末の閣議決定を予定する。

 基本方針は、政権の経済政策「アベノミクス」により「経済の好循環」が継続しているとの認識を示しつつ、先行きについては「海外経済の不確実性や金融資本市場の変動の影響」などに留意する必要があると指摘する。

 その上で、好循環を腰折れさせない施策を実施していく必要性を強調。具体的には「金融政策に成長志向の財政政策をうまく組み合わせることに留意する必要がある」とし、限界論が指摘される日銀の金融政策にとどまらず、財政政策を効果的に実施するべきだとの内容となる見通しだ。

 予算の配分については、働き方改革をはじめとした一億総活躍社会実現に向けた施策など「メリハリのきいた予算編成を目指す」方針。0%台とされる日本の低い潜在成長率を引き上げるため、企業のイノベーション(技術や経営の革新)や研究開発を促す施策、子育て・介護を側面支援する施策などに重点配分する考えを基本方針に盛る。

 歳出改革については、ワイズスペンディング(賢い支出)の視点で取り組み、公共サービスの産業化などを推進する。例えば、国営の空港の運営権を民間企業に売却するコンセッション方式を全国の空港に拡大する施策などを推進する考えだ。

二兎を追うも


 今回の基本方針では、20年度に名目国内総生産(GDP)600兆円を実現すると同時に、国・地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)も黒字化する政府目標を堅持する姿勢を示す。

 だがPBを黒字化するには年度平均3%以上の名目GDP成長率を継続する高いハードルをクリアする必要がある。高い成長率を追求するあまり、財政規律が緩む懸念がある。

 財政制度等審議会(財務相の諮問機関)は17年度予算編成に関する建議(提言)の中で「財政健全化には一刻の猶予も許されない」とし、経済・財政再生計画に基づいて一般歳出、社会保障関係費の伸びをそれぞれ5300億円、5000億円に抑えるよう求めた。

 世界経済の先行き不透明感が強まる中、与党内では歳出圧力が強まりつつある。財政健全化と経済成長の“二兎(にと)”を果たして得られるのか、政府・与党には財政再建に向けた堅実な中長期の道筋を示す姿勢も求められる。
日刊工業新聞2016年11月23日
神崎明子
神崎明子 Kanzaki Akiko 東京支社 編集委員
記事中にも指摘がある「公共サービスの産業化」は大きな可能性があると感じます。空港の運営権を民間企業に売却するコンセッション方式をいち早く採用した仙台空港は早くも経済活性化へ成果を上げていると聞きます。

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