ニュースイッチ

高額薬は「世界の恥」? 薬価制度、抜本見直しへ

国民皆保険揺るがす問題。引き下げ幅合意形成難しく
高額薬は「世界の恥」? 薬価制度、抜本見直しへ

小野薬品工業の「オプジーボ」の薬価は英国の約5倍

 高額な医療用医薬品をめぐり、激しい議論が続いている。小野薬品工業の抗がん剤「オプジーボ」(一般名ニボルマブ)は緊急に薬価を引き下げる方向となったものの、引き下げ幅などの調整が続く。識者からは初回の薬価算定時点で薬の価値を適切に判断できるよう、制度を抜本的に見直すべきだとの声もあがっている。国民皆保険の維持と革新的な医薬品の評価を両立させるため、すべての関係者が知恵を絞る必要がある。

オプジーボの薬価は英国の約5倍


 「こんな常識外れの薬価が許されるのか。世界の恥だ」。全国保険医団体連合会(保団連)の住江憲勇会長は憤りを隠さない。日本ではオプジーボの薬価が英国の約5倍、米国の約2・5倍に設定されているという。

 同剤は2014年7月に皮膚がんの治療薬として承認を受けた。年間予測患者数は470人で、小野薬品の採算も考慮されて薬価は100ミリグラムで約73万円となった。

 だが15年12月、万人単位の患者がいる肺がんに適応が拡大した。効能や効果の追加に伴って市場が広がった薬剤は2年に1回の薬価改定時に再算定が行われるが、オプジーボは16年度薬価改定で再算定が間に合わなかった。

 16年4月には財務相の諮問機関である財政制度等審議会で、同剤の薬剤費が年間1兆7500億円に上るとの試算が出された。中央社会保険医療協議会(中医協、厚生労働相の諮問機関)でも国民皆保険を揺るがしかねない問題とみなされ、同剤の薬価を緊急的に下げる検討が進んでいる。引き下げ時期は17年度初頭が有力だ。

(中医協の薬価専門部会では高額薬剤への対応に関する議論が続いている)

25%か50%か


 10月5日の中医協薬価専門部会ではこの方法論として、以前からある市場拡大再算定の考え方を適用する案が示された。予想よりも大幅に売れた薬の価格を見直すもので、年間販売額が1000億―1500億円の場合は最大25%引き下げる。

  通常、この仕組みは市場での実勢価格や販売数量を調べる薬価調査の結果をもとに運用される。だがオプジーボはこれを実施していないため、小野薬品による予想販売額を活用する提案がなされた。同日時点の予想額は1260億円だった。

  これについて中医協委員からは、「数字の根拠をきちんと企業側から説明してもらうべきだ」(幸野庄司健康保険組合連合会理事)との意見が出た。市場拡大再算定では年間販売額が1500億円超の場合、薬価引き下げ幅が最大50%となる。幸野委員は「実績と乖離(かいり)があった場合の対処も検討が必要だ」とも指摘し、引き下げ幅の合意形成は容易でないことをうかがわせた。

影響は他の薬剤にも波及


  影響は他の薬剤にも波及する。MSD(東京都千代田区)は9月28日、オプジーボと作用が似た抗がん剤「キイトルーダ」(一般名ペムブロリズマブ)の製造販売承認を取得した。順調なら11月中に薬価収載の見通しだが、厚生労働省がオプジーボの現行価格と同等の薬価をキイトルーダにつけることには異論が予想される。この観点からも厚労省はオプジーボの薬価見直しを急がざるを得ない。

 「18年はこんな緊急対応をしなくていいよう、薬価制度自体も抜本的に見直すべきだ」(吉森俊和全国健康保険協会理事)。効能・効果の追加に伴って市場が拡大した薬剤については2年に1度の薬価改定を待たずに価格を引き下げる「期中改定」が制度化される公算が大きく、製薬企業には打撃となる。

(9月に承認された類似薬「キイトルーダ」=米で発売中の製品)

<次のページ、製薬業界、臨床試験の効率化を模索>

日刊工業新聞2016年11月3日「深層断面」
村上毅
村上毅 Murakami Tsuyoshi 編集局ニュースセンター デスク
医療費の抑制か、医薬品の革新か-。高額薬を巡って、議論が分かれるところだろう。薬の適応範囲が拡大した場合、価格の見直しは避けられないとは思うが、一方で「高額薬=儲けすぎ」として高額薬ばかりを標的にしすぎるのにも違和感もある。革新的な医療が従来治療が難しかった病気を治すとなれば、中長期でみれば医療費抑制につながる期待もあるからだ。ただ、高額薬が乱用されるようでは元も子もない。あらかじめその薬が効くかどうかなどの技術開発と合わせて、適正に使用する議論も求められる。

編集部のおすすめ