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「現場で鍛える」富士通流はSEのダイバーシティにも

製造業、流通のデジタル革命を支援する等身大の女性SE
「現場で鍛える」富士通流はSEのダイバーシティにも

乾さん(左端)の所属するチームは5人中3人が外国人(ドイツ、ミャンマー、ネパール)

 国内で約2万人のシステムエンジニア(SE)集団を抱える富士通グループ。東日本地域を担当する富士通システムズ・イースト(FEAST、東京都港区)では女性や外国人の活躍など、ダイバーシティー(多様性)の新風が吹いている。

まだまだ比率は男社会


 SE職は一般に新3K(きつい、厳しい、帰れない)のイメージが強く、一言でいえば男社会。FEASTの場合、SEの総数は連結で4328人。このうち女性比率は13・1%(565人)とまだ少ないが、ここ数年で着実に増えている。

 この流れを加速させようと、2017年度から新規採用に占める女性比率を「35%以上」とする高い目標を掲げた。17年度の新規採用計画は100人(前年度は86人)で、その大半がSEであり、単純計算でも30人近くの女性SEが誕生する。

 「入社時から海外に行きたいと希望していたら、機会は2年目に訪れた」と語るのは、FEASTに12年度に入社し製造業担当のSEとして活躍する乾幸穂さん。

 男女を問わず現場で鍛えるのが富士通流。乾さんは、担当の日系メーカーがメキシコに工場を新設することになり、プロジェクトに参加した。

 そこで当該メーカーが、中国工場で使っているITシステムをメキシコにも導入することが決まり、乾さんが現地従業員のトレーニングと要件定義を担うことになった。現地といってもメキシコではなく、まずはメキシコ工場を管轄する米国本社(ミシガン州)が対象。システム導入後の保守や追加開発を米国本社で行うのため、ミシガン州に飛んだ。

顧客の国籍は多様。合意形成も一筋縄ではいかず


 日系の協力会社の大ベテランとコンビを組んだが、現地従業員との意思疎通は主に乾さんの担当。海外旅行などで培った語学で臨んだが、現地従業員の国籍はポーランドやブラジルなど多種多様。

 しかも中国とメキシコでは従業員の規模や業務のやり方が違うため、要件定義の際の合意形成が一筋縄ではいかず、譲り合えるような場面でも「ノー」と言われることもしばしばあった。

 それでも粘り強く頑張り、2カ月間にわたる現地での任務を完了した。その後、メキシコ行きは治安の悪化でストップがかかり、日本からの遠隔サポートで開発を協力し、14年4月にシステムが稼働した。

 乾さんの所属は「グローバルデリバリー本部」。製造業担当ゆえに工場にも出向く。「作業服を着て、安全靴を履き、ヘルメットをかぶるときもある」という。

 今は日本企業の海外進出の支援がメーンだが、「今後は、海外企業の現地支援もやってみたい」という。意思疎通の難しさを苦にせず、海外業務という心理的なハードルをしなやかに飛び越える。

エステのシステム構築、女性の視点で設計


 「SEは意見を言わないと始まらない仕事だ」と語るのは、FEAST第二流通ソリューション本部の寶田愛さん(11年度入社)。最初の配属は100人強の大規模プロジェクト。そこで腕を磨くうちに「プロジェクトの全体を見渡し、自分で推し進める仕事がしたい」と一念発起。希望を出したところ、エステティックサロンの商談で声がかかり開発リーダーに抜てきされた。

(寶田さんはタブレット端末を活用して提案)

 任務は約10年間使っていた他社製の店舗システムの再構築。寶田さんを含め、富士通側は3人が1チームとなり、協力会社とともに取り組んだ。

 「大規模プロジェクトとは異なり、自分で道筋を作るところから始めた」と寶田さんは振り返る。担当したエステサロンは全国に100店舗以上あり、店舗ごとに独立性が強い。

 ヒアリングを通して「がちがちのシステムではエステティシャンの仕事が回らない」ことは理解したが、一方で、エステサロンの本社からは全社統一の内部統制の強化を求められていた。エステティシャンの使い勝手と、統一の内部統制は相反する面が多く、その狭間(はざま)で、どうシステムを実現するかが腕の見せどころとなった。

 それでも、エステのお客さんが来店した際の動線や着替えまでの流れを思い浮かべたりして、女性ならではの視点で設計し、顧客カードやタブレット端末なども導入した。

 設計段階で合意した通りにシステムは完成したが、トライアルの際に各店舗から問題点が多数出てきた。合意通りと主張することもできたが、現場の様子を思い浮かべ、「運用面で、こうすれば実現できる」と一つひとつ丁寧に回答し、15年4月に本格的に稼働させた。

 寶田さんは次の目標として「社内の人たちがよりよく働くにはどうするかに視点を置いていきたい」という。

(女性SEが現場に変化を起こす。寶田さん<右>と乾さん)
日刊工業新聞2016年6月7日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
クラウド時代の進展により、ICTの現場ではSEや営業職に対し意識改革やスキル転換が問われている。システムも「作る」から「使う」へと変貌、目指すべき人材像が見えにくくなっているのも事実。しかしクライアントの業務や悩みを理解して、仕様書やプログラムを書いたり、新たな提案を見いだしたりすることの価値は変わらない。主役は人。変化の波は現場で起きている。

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