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先駆者ソニーが撤退。日本のリチウムイオン電池の歴史を振り返る

<追記あり>パナソニックと明暗を分けたもの
先駆者ソニーが撤退。日本のリチウムイオン電池の歴史を振り返る

ソニーの平井社長(左)とパナソニックの津賀社長

*日本初の商品化、すでにEV見据える

日刊工業新聞1990年2月15日


 ソニー・エナジー・テック(東京都渋谷区)は、安全性と充放電サイクル特性を大幅に向上させたリチウムイオン蓄電池を開発、サンプル出荷を始めた。金属系リチウムを特殊リチウム化合物に置き換え、安全性を高めるとともに、負極材、電解質の最適な組み合わせによりサイクル寿命1200回以上を実現した。また、積算エネルギー量はニッケルカドミウム蓄電池に比べて4倍にアップした。価格は小型電池でニッケルカドミウム蓄電池より約30%高くなるという。

 リチウムイオン蓄電池「US―61」は正極に特殊リチウム化合物(イオン結合)を採用。正極から出るリチウムイオンが負極との間を往復して、電気エネルギーを蓄積、放出する仕組み。

 正、負両極に酸化されやすい金属系リチウムを一切使用せず、安全性を高めた。金属系リチウム使用の電池は米国運輸省から輸送上、危険物の規制を受けるが、新蓄電池は規制から除外の判定を受けたという。

 サイクル寿命は100%放電深度でも1200回以上で、リチウム系蓄電池の中で最も長い。積算エネルギー量(容量×放電深度×サイクル寿命)は1リットル当たり264キロワット時と大きい。

 またエネルギー密度は1リットル当たり253ワット時、1キログラム当たり115ワット時。それぞれニッケルカドミウム蓄電池の2・9倍、3・8倍、アルカリ・マンガン乾電池の1・3倍、1・4倍で、同一容量なら小型で軽い電池となる。

 平均作動電圧は3・6ボルト。自己放電はニッケルカドミウム蓄電池の半分。同社は小型セル(直径14―20ミリ)用で、月産10万個の生産設備を整えた。携帯用OA機器、家電製品の電源用のほか、カーバッテリー、写真機器電源、将来は電気自動車の駆動用電源にも使えるとみている。

パナソニック、トヨタと車載電池で合弁。ニッケルにこだわる


日刊工業新聞1997年6月6日「巨大企業の挑戦・松下電器産業」より



 「この企画案を殺してはいけない、とことんやろう。それで駄目なら、売れなかった時は責任を取ろう。いや自分は首をかけてこのRAV4を開発しよう」。1995年1月の経営方針発表会で、社長の森下洋一は当時話題を集めていたトヨタ自動車の小型レクリエーショナルビークル(RV)「RAV4」の開発主査の苦労話を引きながら、「最後にはきっちりと『初の商品』を生み出していく」トヨタの企業風土、開発魂を松下電器にも根づかせようと訴えた。

 97年2月20日、東京プリンスホテルで森下とトヨタ社長の奥田碩ががっちりと握手を交わした。松下電器、松下電池工業とトヨタの三社が共同出資で「パナソニックEVエナジー」を設立、電気自動車(EV)用のニッケル水素蓄電池の開発に取り組むことになったからだ。

 設立披露の式典で、森下が「地球環境問題の高まりでEVが注目される中、そのキーデバイスであるバッテリー事業の社会的な使命は重い。世界のEVメーカーに役立つ会社に育てたい」と新会社への熱き思いを語れば、奥田も「EVのカギを握る高性能バッテリー事業を最高のパートナーとスタートできた」と答え、両社の蜜月(みつげつ)ぶりをアピールした。

 「電池がパワーとして車に役立つ時代がきた」。こう判断した森下は、94年にニッケル水素蓄電池とともに、モーター・コントローラー、エアコンを加えたEV関連の三つの開発を社長プロジェクトにしている。

 新会社は99年までを研究・商品開発と市場開発に充て、2000年から本格的な事業展開に入る。社長に就任した元松下電池取締役EV電池開発センター所長の川瀬哲成は「電池屋と車屋が別々に開発していくには時間がない。95年ごろには共同開発でも駄目だと分かり、会社をつくってお互いの技術を融合するしかないとの結論に達した」と、スタートからトップギアでの走りを義務づけられていることを強調する。

 EV用電池では、ソニーが日産自動車と共同でリチウムイオン電池の商品化を目指しているが、「エネルギー密度、出力、信頼性、リサイクル性などのバランスからみてニッケル水素が最も優れている。30種類もの電池を検討したが、21世紀初頭にはニッケル水素しかない」とハンドルさばきには自信をのぞかせる。

 「世界のすべてのEVメーカーへの『役立ち』を通じて、グローバルな専門電池メーカーを目指す」新会社だが、100年の歴史を持つエンジン車を向こうにまわしての競争は半端ではない。料金の安い夜間電力を使えばランニングコストは3分の1になるという計算もあるが、現実にはコストの壁は高い。

 「日本で生産される年間600万台の車の1%でもEVになれば、電池の価格は100万円を切れる。そうなるのに十年はかからない」。

 EV用蓄電池のプロ、川瀬の強気なヨミを世界の松下とトヨタが車の両輪として、どれだけ加速できるか。最後は「初の商品」に仕上げるトヨタの企業風土、開発魂が松下の技術陣の“オクタン価”をどれだけ高められるか。「地球環境との共生」を経営の柱に掲げる森下のカーエレクトロニクス分野での“仕掛け”の成否も、この“融合”にかかっている。
(敬称略)

発熱・発火事故相次ぐ


日刊工業新聞2006年12月18日



 工業製品の不具合、事故が多発した1年だった。リチウムイオン電池ではノートパソコン用のソニー製に続き、12月に入って携帯電話端末用で三洋電機製の不具合発生が明らかになった。同電池は従来に比べ軽量で大容量のため2次電池の主流になっている。正極にリチウム・コバルト酸化物、負極にグラファイト(炭素)を使い、間にイオンを通す膜(セパレーター)を挟み、電解液に浸した構造。


 充電時には正極中のリチウムがイオンとなって負極に移り、グラファイト層の間に保持される。機器を使用する放電時は負極から正極にリチウムイオンが戻ることによって電流が流れる仕組み。充電時にリチウムが大量に抜けるとコバルト酸化物結晶が崩壊する、電池内部が150度C以上になると熱暴走して爆発に至るなどの危険も内在している。これを正極のリチウムを60%以上引き抜かない制御、温度ヒューズなどの保護回路によって回避している。

 実際の電池はシート状の正極・セパレーター・負極の3枚を重ねて巻き上げ缶などの容器に詰める。不具合が生じたのはソニー、三洋とも巻き上げた終端のエッジ部。ソニーは工程で混入した金属粒子によりショート、三洋はエッジ部で負極がセパレーターを突き破り金属缶に触れてショートしたとしている。

 両方とも新しい機種で不具合が生じていることから、急速に高度化するモバイル機器のニーズに電池が追い追い付けないことが原因の一つと思われる。電池には小型、大容量という相反する性能が求められる。各社はノウハウを駆使し、シート状電極をきつく巻く、セパレーターを薄くする、端子などを配置する上部の空間を小さくするという具合にあらゆる隙間(すきま)を残さない工夫を必死で行っている。

 だが、電池メーカーの技術者は「リチウム・コバルト酸化物での容量増は限界にきていた。目いっぱい詰め込んで容量を稼ぐことにより危険性は高まっていた」という。すると対策は現在の材料、構造のまま画期的な安全確保技術を開発するか、材料や構造を変えて大容量化を図るかのどちらか。正極材料ではマンガン系が一部で実用化されているほか、負極はスズやシリコンが検討されている。燃料電池も視野に入ってきた。

 携帯電話やノートパソコンはユビキタス時代の有力端末であり、2次電池はそのキーデバイスだ。日本メーカーが強い分野でもある。ノウハウの問題もあるだろうが、ソニー、三洋の両社は不具合の原因をできるだけ詳しく明らかにしてほしい。これによって電池メーカー各社は今回の不具合をきっちり受け止め、安全を前提にユビキタス時代のニーズに果敢に応える技術開発を急がなければならない。

韓国にシェアで逆転許す


日刊工業新聞2012年3月28日


 日本のメーカーのリチウムイオン二次電池事業が曲がり角を迎えている。2008年に50%弱だった出荷シェアが11年に34・6%まで縮小。円高進展や東日本大震災の発生が影響した。

 代わって台頭したのが韓国勢だ。テクノ・システム・リサーチ(東京都千代田区)によると、日本勢がリチウムイオン電池の年間出荷で韓国勢に抜かれるのは初めて。韓国のメーカーは円高、ウォン安を背景にコスト面での優位性を拡大した。

 さらに「東日本大震災が発生した際に、日本のメーカーが直接被災したり、サプライチェーン寸断で十分に生産ができなかった中、韓国メーカーが不足分を補った。結果的に日本のシェアを奪う形となった」(テクノ・システム・リサーチ)と指摘する。

 日本勢は合計数値で韓国勢に抜かれたものの、企業別はパナソニックが三洋電機を加えてシェア23・5%を獲得。同23・2%で2位のサムスンSDIを僅差で上回った。

 パナソニックは12年度、蘇州市に中国で3カ所目のリチウムイオン電池の新工場を稼働する。国内生産拠点は12年度末までに4工場に半減するなど「勝てる生産体制を構築」(パナソニック)して、韓国勢の追撃を振り切る構えだ。

 車載用はトヨタ自動車の「プリウスPHV」への供給を含め、世界で10車種以上に採用が決まっている。「12年度は今年度の5倍を超えるビジネスになることが見えており、収益面で貢献も期待できる」(大坪文雄パナソニック社長)という。量産6ライン体制で生産を増強し、今後は中国など海外で新ライン、新工場も検討する。

 一方、91年に世界で初めてリチウムイオン二次電池を商品化したソニーは苦戦気味。05年ごろまでは世界市場で常に上位に位置していたが、06年に状況が一変した。米デルや米アップルなどのパソコン世界大手向けに供給していたソニー製のリチウムイオン電池で大規模なリコールが発生。顧客であるセットメーカーからの信頼が揺らぎ、ソニー自身も拡大路線から製品の安全性向上という内向きな資源集中を余儀なくされた。

 サムスンやLGなど韓国メーカーの攻勢が強まっていた時期とも重なった。ソニーのリチウムイオン電池の生産は現状、国内が主体。とくに基幹部材の電極は全量が国内生産だ。今後、付加価値の低い組立工程は国内から、シンガポールと中国工場に集約する。日本国内は電極製造や設計・開発に特化する見込み。

 かつて日本勢が圧倒的シェアを誇ったリチウムイオン電池。挽回策が海外への生産移転というのは厳しい現実だが、ここで電動車両やスマートフォン(多機能携帯電話)など“旬”の技術を取り込めなければ再逆転はおぼつかない。早急の生産体制再構築がカギを握る。


テスラ向けの新工場稼働へ。車載で攻めるパナソニック


日刊工業新聞2016年7月11日


 パナソニックは2018年度に車載・産業用二次電池事業の売上高で、15年度比2・5倍の5000億円を目指す。このうち車載用は同2・2倍の4000億円に増やす。米テスラ・モーターズ向けを中心に、市場が拡大する電気自動車(EV)の需要などを取り込む。19年には出力・エネルギー密度を現行比5割以上高めた角形リチウムイオン電池を投入する。車の加速性能や航続距離の向上に役立つ。

 車載用の事業では4月に横浜市に開設した開発拠点を活用し、関東地域の技術者を確保して顧客対応を強化する。また16年内に米国で米テスラ向けの電池工場(ネバダ州)を稼働するほか、17年度には中国・大連市でも新工場を稼働し世界で供給体制を整える。

 産業用蓄電池は15年度比5倍の1000億円を目指す。携帯電話基地局やデータセンターの用途に合わせ、モジュールと保守の一体提案を積極化する。

 15年度の二次電池事業はパソコン向けの低迷などで631億円の営業赤字だった。16年度に黒字転換を目指す方針で、同事業を担う田村憲司役員は「車載・産業向けへの転地が事業の成長に欠かせない」と話す。18年度には車載・産業向けの売上比率を15年度の7割から9割まで高める意向だ。

ファシリテーター・原直史氏の見方


「ソニーのデバイス事業は画像センサーの一本足打法に」

 ソニーがバッテリー事業を売却することは、3年ほど前に一度話題になったことがある。その時は、経営陣の判断で事業継続になったと記憶している。今回は売却の決定となった。

 ソニーはリチウムイオン電池を最初に実用化したメーカーだ。二次電池の利用が、ポータブルエレクトロニクス機器など限られた分野だった頃から、事業に投資してきた。二次電池の利用範囲が、自動車、住宅などに広がり、将来は再生可能エネルギーの安定供給などにも

 大きな役割を果たすと予想される時期の売却は残念な気もするが、経営陣はその方向には進まないと決断したのだろう。これで、ソニーのデバイス事業は画像センサー集中型の一本足打法となった。

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明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役ブランドコミュニケーション担当
ソニーが初めて商用化した90年にはすでにEV用を想定していたのは感慨深いものがある。2005年に社長に就任した中鉢さんはもともと電池畑の出身。アクセルを踏むかと思われたが期間中に発火事故があったのは痛かった。09年にソニーも車載向けへの参入を正式表明したが、CEOのハワード・ストリンガー氏はエレキ部門に関心が薄く戦略はちぐはくしたものになった。 一方、パナソニックは早くからトヨタを組んだことは車載分野に知見を貯めていく上で大きかった。シェア争いで激しく争っていた三洋電機を買収。当初は融合で苦労したが、今は三洋の電池事業の資産が生きているのは間違いない。現在の津賀社長も車載事業のトップを経験しており思い入れは強い。テスラ向けに大きく張ったが、顧客基盤を厚くする必要がある。

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