ニュースイッチ

デンソーは藻類培養で美容・健康食品メーカーの顔を持ち始めた?

天草に実証プラントが本格稼働。バイオ燃料技術確立へ
デンソーは藻類培養で美容・健康食品メーカーの顔を持ち始めた?

廃校のグラウンドに設置した藻培養槽

 デンソーが熊本県天草市に設けた、微細藻類の大規模屋外培養実証プラントが本格的に稼働を始めた。培養するのは光合成により二酸化炭素(CO2)を吸収して自動車などに使えるバイオ燃料をつくり出す藻。デンソーは天草のプラントで2018年度に効率的な大規模培養技術を確立し、そのノウハウを培養事業者にライセンス供与して広げるビジネスモデルを描く。自動車部品世界大手のデンソーにとって変わり種とも言える取り組みは果たして花開くか―。

 細長い培養槽が屋外に並ぶ天草のプラント。その隅にはサッカーゴールが、ぽつんと置かれている。プラントは廃校となった中学校跡地をデンソーが賃借して設置し、グラウンドだった場所に培養槽を設置した。事務所や室内実験室は体育館を利用している。愛知県に本社を置くデンソーが天草を選んだのは「温暖な気候と豊富な日照、きれいな水」(渥美欣也新事業推進室事業企画担当部長)と藻の培養に適した環境が整っていたからだ。

 デンソーは08年に微細藻類の研究に着手。「5万種類以上ある」(同)藻の中から選んだのはシュードコリシスチスという大きさ5マイクロメートル(マイクロは100万分の1)程度の微細藻類。デンソーが特許を持つ新種の藻で、光合成によって細胞内にオイルをつくる。“体脂肪率”は30%に達する。

 培養技術確立に向け、これまで培養規模を段階的に大きくしてきた。当初は実験室での小規模培養から始め、10年からは善明製作所(愛知県西尾市)の一角を使い20×2メートルの槽で実施。そして天草で事業化に向けた大規模培養の実証を行う。

価格は軽油レベルに下げるのが目標


 大分県の別府温泉から採取したシュードコリシスチスを使用し、段階的に槽を大きくしながら培養する。まずは実験室、次に屋外の20×2メートル槽、40×4メートル槽、80×8メートル槽と順番に移していく。トータル20―30日で回収でき現状の生産能力は精製前のオイルベースで年間約6000リットル。18年度までに80メートル槽を2本追加導入し、同2万リットルに拡大する。

 バイオ燃料実用化に向け壁となるのが価格だ。現状では1リットル当たり600―1000円。これを「軽油レベルに下げるのが目標」(同)。コスト削減に向け、もっとも効率的な槽の設置数を突き止めるほか、今は人手で藻が沈殿しないよう培養槽を撹拌(かくはん)しているが全自動化を目指す。藻自体も改良する。より増殖速度を高めたり、体脂肪率を増やしたりといった遺伝子レベルの研究を進める。

 またシュードコリシスチスは燃料だけでなく養殖用飼料や健康食品用栄養素などとしても活用できそうだ。それらトータルでもうかる仕組みを確立した上で18年度以降、ライセンス供与を展開する計画だ。


限定発売でバカ売れしたハンドクリーム


日刊工業新聞2015年08月07日




 自動車部品の世界大手メーカーであるデンソーのハンドクリーム「モイーナ」の評判がいい。2014年末に発売した限定1万5000個は売り切れ、追加販売を始めた。今秋までに5万2000個を追加生産する計画だ。新事業推進室の渥美欣也事業企画担当部長に開発のきっかけなどを聞いた。
 
 ―ハンドクリームを商品化したきっかけは。
 「新事業推進室では以前から微細藻類を培養研究している。目的は藻が生成するオイルを自動車用バイオ燃料にすること。ただ実用化はまだ先の話。新事業推進室として“何か別のこともしないと”という危機感があった。そんな中、培養する『ボトリオコッカス・ブラウニー』が生成するオイルの化学構造が保湿剤の『スクワラン』のそれと似ていることを見つけた。実際に保湿効果が高いことがわかり商品化を目指した」

 ―自動車部品メーカーのデンソーが化粧品とは驚きました。
 「コンセプトは『デンソーからサプライズを発信する』。社内でも当初は『なぜうちが化粧品をやらないといけないのか』など反対意見が多かった。女性社員に試作品をテストしてもらったり、時には反対している人の奥さまに使ってもらったりして良好な結果を示すことで流れが変わっていった」

 ―商品化でこだわったことは。
 「品質保証を徹底的にした。コンサルティングを入れ、大手化粧品メーカーがどう品質保証をしているか勉強し、それ以上の安全性試験を行った。私は普段ハンドクリームを使わないので、商品化では新事業推進室の女性陣の寄与が大きかった。デザインや香りは特に女性チームがこだわったところだ」
 (文=名古屋・伊藤研二)
※内容肩書きは当時のもの
日刊工業新聞2016年7月28日
永里善彦
永里善彦 Nagasato Yoshihiko
藻類を原料とするバイオ燃料に関しては産総研や筑波大学、神戸大学等が研究開発に余念がない。また環境の観点からかなりの企業が大学と組みながら商業化にチャレンジしている。以前にも紹介したが、ブルームバーグは、2010年代中に藻類由来の燃料を大規模に製造する商業技術の見込みはないと予測している。したがって(というべきか)、光合成で細胞内にオイルをつくり“体脂肪率”が30%に達するシュードコリシスチスという微細藻類をデンソーは見つけたのであるから、天候にめぐまれた天草で効率よく培養し、まずは付加価値の高い健康食品分野への用途開発を進めるべきであろう。それが軌道に乗れば、バイオ燃料としての用途が見えてこよう。

編集部のおすすめ