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孫社長がARM買収のキーワードにあげたIoTの未来

「次のパラダイムシフトへ中長期の戦略に深く関わっていく」
孫社長がARM買収のキーワードにあげたIoTの未来

ロンドンの会見(動画中継画面より)

 ソフトバンクグループは18日、半導体設計を手がける英ARMホールディングスの買収について、両社間で合意したと発表した。ARMの全株式を約240億ポンド(約3兆3000億円)で取得し、完全子会社化する。買収は9月末までに完了する見込み。

 ARMはIoT(モノのインターネット)分野で生かせる優れた技術を持っており、同社の買収により今後拡大が見込まれるIoT市場の需要獲得を目指す。

 ARMはスマートフォンなどに使われる半導体を設計し、そのライセンスを半導体メーカーなどに提供している。世界の市場では圧倒的なシェアを持っており、ARMによると世界のスマホの95%で採用されている。

 ソフトバンクグループの孫正義社長は同日、ロンドンで記者会見を開き、「次のパラダイムシフトがIoTにより起きると考えている。巨大なチャンスのあるIoT分野を強化するために投資する」と買収の狙いを語った。

 そのうえで、ARMに対して「成長のための資金を提供するほか、中長期の戦略に深く関わっていく」と力を込めた。今後5年で英国におけるARMの従業員数を倍増する方針も示した。

 ソフトバンクにとっては2013年の携帯電話子会社、米スプリントの買収(約220億ドル)を上回る過去最大規模の買収となる。同社は今年6月以降、中国電子商取引(EC)大手のアリババグループホールディングやフィンランドのスマホ向けゲーム会社、スーパーセルの株式などを売却し、約2兆円を資金化した。

 これらをARMの買収資金に充てる。また、ブリッジローンとして最大1兆円の借り入れ契約をみずほ銀行と締結した。

坂村健・東大教授に聞く「次の時代の標準インフラに」


日刊工業新聞2016年3月31日付別刷特集掲載


 モノのインターネット(IoT)への世間の関心が急速に高まっている。中には「モノ同士がインターネットでつながることで、インターネット以上に世界が変わる」と予測する専門家さえいる。そこで、リアルタイム組み込み基本ソフト(OS)「トロン」の開発で知られ、IoTが話題になるずっと以前から、それを先取りするコンセプトを提唱してきた東京大学の坂村健教授に、近未来のIoTの姿などについて聞いた。


 ―IoT(モノのインターネット)が注目されています。この先どう発展するとみていますか。
 私が進めてきたトロンプロジェクトでは、すべてのモノに組み込みコンピューターが入り、ネットワークでつながるシステムを追求してきた。プロジェクト開始から約30年が経過して、半導体チップの性能や集積度が向上し、インターネットの急激な進化も相まってすべてのモノをネットにつなぐ環境が完成してきた。

 今後、IoTそのものがビジネスとして立ち上がっていくだろうし、次の時代の標準インフラになるのは間違いない。

 一方で、ビッグデータや人工知能(AI)とIoTは一見関係ないようで、実はすべてが関連している。モノがネットにつながるといろんなデータが集まってくる。AIの新しい手法に大量のデータが投入されることによって、AIやディープラーニングがさらに進展する好循環が起きている。

 ある意味、大型コンピューター、パソコン、モバイルと進んできた大きな階段を、また一段上っているとも言えるし、情報処理と組み込みというコンピュータ応用の大きな二つの流れが合流するという意味では、まったく新たなステージに入ったとも言えるだろう。

「アグリゲート・コンピューティング」とは


 ―IoTの関連で、坂村先生は「アグリゲート・コンピューティング(Aggregate Computing)」を提唱しています。
 それを説明するのによく言っているのが、携帯電話の機能を分解すること。たとえば、いまスマートフォンに電話がかかってきたとしたら受話ボタンを押さない限りつながらない。

 でも、なぜ携帯電話やスマホをポケットから出してボタンを押さなければいけないのか。『電話受けるよ』と言葉で言ったり、ソファーやテーブルを叩いたりすることで電話がつながるようにしてもいい。それが私が提唱しているアグリゲート・コンピューティングの基本的な考え方だ。

 ―モノが全てネットワークでつながっているわけですからね。
 テレビのスピーカーはテレビの音を聞くのにしか使っていないし、天井の火災警報器にもスマホにもスピーカーが付いている。自分しかいないのなら、電話の声がそこから聞こえてきてもいいし、何より電話機がいらない。つまり『私がここにいると言うことがわかる』ことが重要になる。

 そうなると必要なのは空間におけるポジショニング(位置検出)システム。通信機能だけ体に着け、手でテーブルを叩いたら『もしもし』と話せることも不可能ではない。このように周囲のあらゆる機器の機能を連携させることで目的を最適な形で果たすということをあらゆることでやろうというのが、アグリゲート・コンピューティングだ。

シェアリングエコノミーを後押し


 まさに機能のシェアリング。これから低成長の時代になるし、地球環境保護の観点からも、簡素でエネルギーを使わない、コストをかけない形態に社会全体を変えていかないと破綻する。

 IoTからAI、センサー、組み込み技術、それにネットワークが総体的に協力し合って一つのことを達成するアグリゲート・コンピューティングを活用して、シェアリングエコノミーを完成させることに一番興味がある。

 ―5年後には、どの程度まで進展しているイメージですか。
 今のIoTをめぐる状況と同じように、普及前夜のようになっているだろう。認知度はかなり進むと思う。ただ、実用化まですぐにはいかない。2020年には東京オリンピック・パラリンピックが開催されるが、そのときに普及を期待しているのが総務省の進める「サービス4.0」。IoTの適用範囲が製造業に加え、サービス業にも及ぶことに大きな意義があると思っている。

事業者の情報連携で“おもてなし”「サービス4.0」


 アグリゲートの考え方はいろんなところにあって、IoTによるサービス連携の意義も大きい。一つの事業者だけから全てのサービスを受ける人はいない。ホテルのコンシェルジェお勧めの場所に行くのにタクシーや電車、バスに乗らなくてはいけないが、その情報を受け渡すには、事業者同士がデータ連携しないといけない。

 日常生活ではそれを自然言語でやっているのに対し、「サービス4.0」ではコンピューターのプロトコルに置き換える。日本の場合は言葉の問題があるので、外国人観光客に『おもてなしカード』というICカードや『おもてなしアプリ』を持ってもらう。

 観光情報が記憶されたカードやスマートフォンを行く先々で提示し、クラウドで情報連携する仕組み。こうすることで旅行者と事業者の間で、早く安く便利に情報がやりとりできるインフラになる。

 ―製造業よりサービス産業の方によりインパクトがありますか。
 総務省のサービス連携委員会にはホテルからデパート、小売業、街づくりに関わる方々が委員に入っていて、『おもてなしインフラ』を熱望されている。そういうエンドユーザーのリクエストを最大限に盛り込んでいく。

 少子高齢化で日本の国内経済が縮小する中、インバウンドを取り込む観光ビジネスは非常に大きな意味を持つ。日本で成功したら、観光を誘致したいと思っている他の国も使いたいとなるのではないか。

自動運転、ロボット普及へ法制度見直しを


 ―一方で、ロボットや自動運転車が注目されています。今後、社会にどんなインパクトを与えるでしょう。
 ロボットや自動運転では、組み込みコンピューターの進化も貢献している。分散コンピューティングによる制御工学が飛躍的に進んできた。大量のデータが得られ、コンピューターが安価になり、クラウドが使えるようになった。無線通信も進歩している。ロボットや自動運転も、その意味ではネット化された組込みでありIoTの一部だ。

 それら技術進歩の結果、ロボットにしても自動運転にしても実用レベルになってきた。ただ、自動運転車やロボットはコンピューターと違い、現実世界に威圧感を持って登場してくるので、人々の考え方がそういうものを受け入れるようにならないと普及は難しい。技術進歩だけでなく、社会変化が必要だ。そこを乗り越えられれば、技術的には問題ない。

 最近の高齢者による交通事故を見ていると、日本こそ自動運転を受け入れた方がいいと思う。自動運転より人間の方が交通事故を引き起こす確率が高い。とくに、車がなくては移動できないような地方にいち早く導入し、自動運転車の先進国になっていくべきだ。

 日本は『鉄腕アトム』の国でもあるし、介護ロボットが町中を歩いていてもおかしくはない。ただ、こうしたことは法律の改正が必要で、国家戦略特区にも期待している。少子高齢社会を解決するカギはIoT、自動運転車やロボットにあることを政府は認識し、ネット時代に向けて法律の見直しに取り組むべきだ。
日刊工業新聞電子版2016年7月18日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役ブランドコミュニケーション担当
超一流の嗅覚を持つ孫さんの「投資案件」という見方もあるが、ソフトバンクグループが世界一のIoTソリューション企業になるための布石か。坂村教授のインタビューを読むと、そこに描き出される世界観にソフトバンクの事業がどのように関わってくるのか興味は尽きない。

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