自動運転、事故時の法的責任は?テスラの死亡事故問題から考える

過失割合の判定複雑化、損保会社はまだ足踏み

 自動運転による事故の責任は誰がどの程度負うのか―。自動運転車の市販化に向けて開発競争が激化する中、技術に焦点があたる一方で、事故が発生した場合の賠償責任といった法的対応の枠組みはまだ手探りの状況が続く。米ではテスラ・モーターズの乗用車が自動運転モード中に死亡事故を起こす事態も生じた。自動運転普及に向け、課題となる法的責任について現状の論点をまとめた。

完全自律型に課題


 「自動運転の時代でも保険は引き続き必要なインフラ」。こう強調するのは日本損害保険協会の北沢利文会長(東京海上日動火災保険社長)だ。損害保険会社26社が加盟する同協会は自動運転が事故を起こした場合の法的責任に関する報告書を6月にまとめた。

 自動車事故に関する現状の賠償責任の法体系は、あくまで人の運転が前提となっている。だが、自動運転ではこの前提が崩れ、賠償責任の対応が難しくなる可能性がある。そこで損保協では弁護士も交えた専門チームを発足し、約2年にわたって調査活動を続けてきた。

 自動運転は技術の進展度合いによって4段階に定義付けされる。大まかに分類すると人が最終的に何らかの形で運転に関わるレベル1―3、人が全く関与しない完全自律型のレベル4となる。

 損保協の報告書ではこの定義に応じ、レベル3までは現行法である自動車損害賠償保障法(対人事故)、民法の過失責任(対物事故)で対応が可能とした。

 レベル3については運転をほぼシステムに委ねているが、緊急時などには人に運転の権限を委譲する要素が含まれるため、現在の法体系で対応できると解釈した。

 ただ、レベル4については、現行法が規定する自動車とは別物と判断。このため、北沢会長は「新しい救済制度や法が必要になる可能性がある」とし、今後は警察庁や国土交通省、経済産業省など関係機関と協議を重ねる考えを示した。

責任の主体判断難しく


 事故の減少が期待される自動運転といえども、事故を100%なくせるわけでもない。被害者救済の立場から、万が一の事態においても保険が持つ重要性は変わらないというのが協会の立場だ。

 報告書では個別の課題も明記された。その一つが事故原因の分析である。自動運転による事故は運転手の過失が原因なのか、システム上の欠陥によるのか、それともサイバー攻撃が発端か。自動運転ではさまざまな要素が重なるため、責任体制の複雑化は避けられず、原因の分析がどのように進められるかは大きな論点となる。

 原因の分析ができないと責任主体が誰なのか判断も難しい。過失割合の判定も複雑化する可能性が高く、その場合、損保会社の損害査定にも大きな影響を与えることになる。

 今回、死亡事故が発生した米テスラの事例をみても、米運輸省道路交通安全局(NHTSA)の調査で、自動運転技術の優位性が強調されるあまり、運転手を注意力散漫な状況に誘導した可能性が認められれば、自動運転をめぐってメーカーの責任が重くなる可能性もある。

 自動運転時代の到来が迫ろうとする中、事故原因の分析一つとっても、クリアすべきハードルはまだ高い。

自動車保険は車社会のインフラ


 自動車保険が売り上げの半分を占める損保会社の現状はどうか。そもそも自動運転自体が開発半ばであるため“自動運転保険”の実現はまだまだ先になりそうだ。

 現状では損保ジャパン日本興亜、東京海上日動、三井住友海上火災保険、あいおいニッセイ同和損害保険の大手4社とも、自動運転の実証実験中の損害を補償するといった程度にとどまっている。

 ただ、直近では東京海上日動が名古屋大学、金沢大学がそれぞれ主導する公道を使った実証実験に参画するなど、自動運転のリスクの研究に独自に乗り出す動きもある。

 損保会社には自動車メーカーが持っていない数百万件の膨大な自動車事故データを蓄積している強みがある。今後はこの事故データを実証実験などで参画主体と共有し、自動運転特有の癖を収集、分析する動きが進んでいきそうだ。

技術先行の課題露呈


 海外では自動運転による事故が既に報告されている。中でも関係者らが関心を寄せるのが米テスラの乗用車が自動運転中に起こした死亡事故。事故原因の詳細は明らかになっていないが、技術先行の自動運転が抱える課題が露呈する結果となった。
(文=杉浦武士、小寺貴之)

専門家の見方


産業技術総合研究所自動車ヒューマンファクター研究センター研究センター長・北崎智之氏
「運転者、常に状況監視を」

 自動運転について米グーグルなどの新興企業は技術の進歩を強調し、既存の自動車メーカーは慎重な姿勢だ。テスラはユーザーの協力で技術をテストし、先端技術を好むユーザーがこれを支え、情報発信もしてきた。

 だが運転者が後部座席に移って、空の運転席を撮影して会員制交流サイト(SNS)に投稿する例もある。技術の過信を招くため、啓発が必要だ。

 技術開発では、運転者がとっさに運転を代わるために最低限必要な状態を明らかにする必要がある。運転者の状態計測技術から開発すべきだ。本質的には運転者が常に運転状況を監視する必要があり、事故責任が普通の車と同じなら製品の価値はどこにあるのか。ユーザー不在の開発競争が過熱していないかと危惧している。

中央大学総合政策学部教授、米国(ニューヨーク州)弁護士、元ロボットビジネス推進協議会保険部会長・平野晋氏
「丁寧な注意喚起不可欠」

 運転者がメーカーと裁判で争って製造物責任を問う場合、設計上の欠陥や警告上の欠陥などが争点になる。警告上の欠陥が追及しやすく、自動運転技術で回避できない事故について運転者への説明が十分かなどが議論される。自動運転はイメージが先行しており、支援技術というメーカーの姿勢と開きがある。丁寧な注意喚起が求められる。

 また自動運転は運転者の負荷を減らす効果と、いざというときに備えて常に緊張感を求める点が矛盾している。運転交代自体が本質的に不可能とされれば設計上の欠陥となる。これはレベル2の自動運転の否定につながりえる。制御技術の開発だけでなく、認知科学などの学際的な検証が必要だ。技術革新を妨げないよう冷静に原因を究明して対策につなげてほしい。

記者ファシリテーターの見方


 米テスラがドライバーの責任を強調したことで、自動運転システムの急所が鮮明になった。今後、自動運転システムの利便性は宣伝できなくなる可能性がある。運転をシステムに委ねても、ドライバーは緊張感を保ち続ける必要があるためだ。さらにドライバーに運転を交代できなければ防げない事故があるとわかっていながら、メーカーが自動運転車を製品化して事故が起これば、対策が十分だったのかと裁判でメーカーの責任が追及される。

 米運輸省道路交通安全局(NHTSA)の調査で、自動運転技術のドライバーを注意力散漫な状態に誘導する可能性が認められると、メーカーの責任はより重くなり、実用化に向けたハードルは跳ね上がる。今回はテスラのファンがテスラ車に乗って事故を起こして亡くなった。今後、自動運転車が第三者を巻き込んだ事故を起こした場合、被害者はドライバーとメーカーを訴えることになる。裁判では賠償金をとるために資金力のあるメーカーの責任を追及する。争点は製造物責任法の警告上の欠陥やシステム設計上の欠陥と言えるかどうかだ。
<続きはコメント欄で>

日刊工業新聞2016年7月7日

日刊工業新聞 記者

日刊工業新聞 記者
07月09日
この記事のファシリテーター

 例えば自動運転技術がドライバーの緊張をほぐしたり、雑誌を読むなど走行中に別の仕事をしても大丈夫かのように宣伝すれば、「メーカーがドライバーを注意力が散漫な状態に誘導している」、「過信を促している」と追及される可能性がある。ドライバーがハンドルから手を放して、わき見運転しているCMは格好の的になる。
 また自動運転の便利さが、ドライバーを運転交代できない状況に誘導するなら、利便性と安全確保が本質的に矛盾する。これをシステムとして防げなければ設計上の欠陥を追及される。設計欠陥と陪審員や裁判官が認めれば、メーカーの責任は重くなる。
(日刊工業新聞社科学技術部・小寺貴之)

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