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EVで追い風、東洋鋼鈑がテスラ「モデル3」に熱い視線送るワケ

リチウムイオン二次電池向け素材に加え子会社の金型が業績に貢献か
 東洋鋼鈑が米国の電気自動車(EV)メーカー、テスラモーターズ(カリフォルニア州)の新型車「モデル3」に熱い視線を送っている。EVが大量に搭載するリチウムイオン二次電池向け素材の拡販が見込める上、子会社化した富士テクニカ宮津がテスラ向けの金型を一手に担っているためだ。業績への貢献は2018年度以降になるが、発売前に記録的な人気を集めたモデル3の行方を見守っている。

 「うまくいけば生産量は倍になる。鋼板の能力を増強しないといけない」。隅田博彦東洋鋼鈑社長はモデル3の予約台数が受け付け開始1週間で約32万台超に上ったことに興奮を隠せないでいる。

 東洋鋼鈑はリチウムイオン電池の素材となるニッケルメッキ鋼板を製造し、パナソニックなど電池メーカーに納めている。パナソニックから電池供給を受けているテスラは、20年に50万台としていたEVの販売台数を18年に前倒しした。

 これにより、「18年度以降、テスラ向けが業績に寄与してくる」(隅田社長)と期待する。生産能力の増強も「もし本当に50万台つくるなら必要になる。工場にニッケルタンクを追加するくらいで、大きな額にはならない」(同)と具体的な検討にも着手している。

 同社は16年度から3カ年中期経営計画をまとめたが、初年度の営業利益は25億円の見通し。これを18年度には一気に80億円まで引き上げる計画だ。とはいえ、鋼板事業の営業益は16年度で11億円、18年度でも22億円にとどまる。「テスラ向けが化ければもっと上に行ける。

 だが、どのくらいの伸びになるのかまだ読めない」(同)のも実情だ。モデル3が予定通り、17年中に発売されるかは現時点で不透明。さらに市場関係者の多くは、テスラが18年に50万台生産するとの計画を非現実的だと指摘している。

 他方、東洋鋼鈑にとっては電池用素材にとどまらない。2月に買収した富士テクニカ宮津はテスラに金型を全面的に供給している。当面は東洋鋼鈑の鋼材事業と自動車向けでシナジーを創出するため、人材交流などで技術の融合を図る方針。具体的な成果を出すにはもう少し時間がかかりそうだ。

 ただ、最近は「テスラ以外のEVメーカーも出てきている。ITベンチャーが多く、彼らは自動車には素人。富士テクニカ宮津にも話が来ている。うまく交通整理すれば、彼らもパナソニックの電池を使ってくれる可能性が高い」(同)としており、EV市場全体の伸びも追い風にしたいところだ。
(文=大橋修)
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
富士テクニカ宮津の買収前、東洋鋼鈑での自動車向け事業は金型の補修など全売上高の1割程度だった。顧客のルートを買うM&Aも良い事例になって欲しいが。

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