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AI創作物におけるプラットフォーマーの影響力を考える

福井弁護士(骨董通り法律事務所)に聞く「著作権の議論はグーグルやアップルなどの戦略と切り離せない」
  人工知能(AI)が作った作品に著作権を認めるべきか議論を呼んでいる。現行法はAI創作物に著作権を認めていない。AI開発者にとって作品が守られないのは遺憾かもしれないが、著作権を認めるとAIが無尽蔵に創作し、コンテンツの寡占を招く可能性がある。音楽や絵画などAIの創作範囲は広がっている。骨董通り法律事務所の福井健策弁護士にAIの著作権はどうあるべきか聞いた。

 ―政府の知的財産戦略本部で検討委員として議論してきました。
 「著作権制度の改正は何年も議論されてきたが、AIで根本的な問題が提起された。著作権の議論は米グーグルやアップルなどのプラットフォーマーの戦略と切り離せない。ユーチューブなど巨大なプラットフォームが国家を超えて市場のルールを作っている。AI開発をリードしているのも米国のプラットフォーマーだ。著作権は排他的に権利を主張できる。小説や動画などAIの創作が広がったときに、強い権利があると寡占が起きかねない」

 ―AIが人間の創造性を超えますか。
 「ゴッホなど天才クラスの作品は難しくても、それなりの作品はAIで作れる。むしろSNS上で拡散される記事や動画の質の低さを考えると、作品の質よりも一人一人の関心にあったコンテンツを配信する方が重要だ。個別配信技術はAIそのものだ。コンテンツ市場の大部分はAIで創作し、ユーザーごとにアレンジして配信するようになるだろう」

(福井健策氏)

 ―著作権はAI開発のインセンティブになるとされます。
 「プラットフォーマーが著作権を求めたことはほぼない。権利の有無と関係のない収益構造を築いたからだ。コンテンツはユーザーを集める材料で、広告や会費などで稼ぐ。AIは特許やビジネスモデルで守れる」

 「プラットフォーマーは強い立場を利用し、利益配分などコンテンツホルダーに厳しい契約を求めている。コンテンツはサービスになり、いずれ統治にも及ぶ。AI創作物に権利を与えるとしても非常に弱い権利になるだろう」

 ―日本の対抗策は。
 「日本市場だけを守っても意味がない。著作権を緩和して権利処理コストを下げ、日本のプラットフォーム育成につなげたい」

 「EUはグーグルに検索と電子商取引などの事業を切り離すよう求め、独自プラットフォームを構築して5300万作品を集めた。だが域外の活動を規制することは難しい。交渉上、対抗は必要だが苦しい戦いになる。フランスは映画館で必ず自国の作品を流すよう定めている。文化を支えるために社会が負担を受け入れたといえる」

【記者の目・文化の支え方見直しを】
 日本では検索エンジン用のデータコピーが著作権法違反とされ実用化できなかった。そこでITインフラではなく、コンテンツを産業の競争力とした。だがコンテンツホルダーは公正取引委員会に訴えるよりも、プラットフォーマーに従う方が得策と言われる状況にある。広告代で作品の制作費をまかなえるクリエーターは少ない。文化の支え方を見直す必要がある。
(聞き手=小寺貴之)
日刊工業新聞2016年6月15日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
一億総クリエーター時代になって著作権のシステムはパンクしました。作品が溢れ、作品を守る価値から作品を広める力に競争力がシフトしています。ドワンゴの川上量生会長は「クリエーターはプロデューサーとしての力が求められる。コンテンツ自体がプラットフォーマーとしての機能をもつべき」と言います。AIが個別配信やプロデュースを担い、一億総プロデューサーの時代が来たらどうなるのかと思います。そのとき公正な市場競争を維持できるのか、何を持って公正というのか。たぶん人間の論証ではなく、AIによる数理的な証明が一番の根拠となると思います。SEO対策ソフトの延長でできるのか、逆解析する計算コストは見合うのか。小さなプラットフォーマーを訴えてペイするようになると、別のところがパンクするのかもしれません。 (日刊工業新聞科学技術部・小寺貴之)

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