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ヨーカ堂と対照的なイオンの提案型店舗は成功するか

GMS28店をこの「イオンスタイル」に転換
ヨーカ堂と対照的なイオンの提案型店舗は成功するか

イオンの専門店「FT」はGMS活性化の切り札の一つに

 大手スーパーで総合スーパー(GMS)改革の試練が続いている。2016年2月期決算のGMS事業ではセブン&アイ・ホールディングス傘下のイトーヨーカ堂が上場来初の赤字になったほか、イオンのGMSも低収益だった。GMSについては今のところ”勝利の方程式“が見えない。果たしてGMSは別業態への転換などで活性化を果たせるのか。イオンが進める提案型店舗「イオンスタイル」による、活性化の現場を探った。

閉鎖せず転換


 大手スーパーのGMS改革の方向性は分かれている。イトーヨーカ堂は店舗閉鎖や直営面積の縮小で、収益改善を狙う。これに対し店舗閉鎖を行わず、新型の業態「イオンスタイル」などに転換することで活性化を図ろうとしているのはイオンだ。イオンは16年2月期までにGMS28店をこのイオンスタイルに転換した。

 「売上高は改装前に比べ20%増だ」。イオンリテール南関東カンパニー神奈川事業部の佐藤大部長は、神奈川県茅ケ崎市のGMS「サティ」を「イオンスタイル湘南茅ヶ崎店」へ業態転換した成果についてこう話す。

暮らし方探る


 サティは従来型のGMSだったが、同店の近くにGMS「イオン茅ヶ崎中央店」があることもあり、業態転換を決めた。改装オープンの数年前から商圏の調査を始めた。イオンスタイル湘南茅ヶ崎店の鈴木由紀子店長はこの調査から「湘南という土地柄、感度の高い住民が多く(自らの生き方にこだわりをもった)『スローライフ』的な暮らし方を志向する人も多い」ことが分かったという。

 そこで湘南茅ヶ崎店のコンセプトは「30代後半から40代の感度の高い夫婦が楽しめる」(佐藤事業部部長)とし、それまで1店でノウハウを蓄積してきたライフスタイル提案型で独自開発の専門店「FT」を導入した。

 これまではカテゴリーごとにあった”組織的なカベ“を取り払い、衣料品や雑貨、靴などをコンセプトに合わせて集めた。しかもFTの売り場中央には、ファッション性のあるカフェを配置したり、子どもが遊べるスペースを配置したりと、従来のGMSにはない取り組みも導入した。

 店舗入り口にはイベントスペースもあり、新規顧客を取り込む仕掛けになっている。また、食品売り場には量り売りの総菜も導入。さらに、店舗独自のアプリケーション(応用ソフト)も開発。店舗の情報を日々配信し、来店の動機付け装置として使用するといった新たな取り組みもあり、従来のGMSというイメージはかなり薄まった。その甲斐あって業績も順調という。

小売業は地域産業


 イオンの岡田元也社長は「小売業は地域産業である」と話す。その上で「しかし、働く女性や高齢者のニーズは、まだまだ取り込んでいない」と指摘する。

 とかく、GMSという”箱“の限界が取り沙汰される。だが「地域のニーズを吸い上げ、常に商品やサービスを改革していければ、店舗は活性化できる」と、ある大手小売業の幹部は話す。GMSという業態の呪縛にとらわれない組織体制や商品、サービスの改革ができるかどうか。それがGMS再生のカギを握っているといえそうだ。
(文=森谷信雄)
日刊工業新聞2016年5月9日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
店舗閉鎖と直営面積の縮小というヨーカ堂が打ち出したGMS立て直し策は鈴木敏文会長の退任によるセブン&アイの体制の刷新でどうなるか分からなくなりました。イオンもGMS改革に試行錯誤の状態が続きそうです。おそらく、GMS改革に勝利方程式はなく、一つひとつ丁寧に地域にあった店舗に作り直していくしかないのでしょう。

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