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英国のEU離脱とサッカー欧州選手権の行方

 サッカー日本代表の岡崎慎司選手が所属するレスターが、英国プレミア・リーグで初優勝した。チームは1884年創立の古豪だが、10年ほど前は3部リーグへの降格も経験しており、その喜びはひとしおだろう。

 英国民にとってサッカー以上の関心事が、6月23日に迫った欧州連合(EU)残留・離脱を問う国民投票。当初は「離脱はないだろう」との見方が多かった。だが、パナマ文書の流出などで最近の予想では大接戦になっている。

 そもそも、なぜEU離脱が問題なのか。英国では以前から「欧州統合のメリットを受けていない」という不満がくすぶっている。経済的にも近年のユーロ危機でEUの重要度は低下しており、離脱派が勢いづいた。

 移民やテロの問題で国民が内向きになっていることも離脱派に有利。さらにキャメロン首相に脱税疑惑が浮上したことは残留派にとって痛手だ。その残留派は、貿易額減少や企業の海外移転などの損失が大きいことを強調して支持を訴える。

 もちろん最後は有権者の選択次第。投票日にはサッカー欧州選手権が開かれるとあって、熱狂的サッカーファンは国民投票どころではないかもしれない。だが、英国の将来の方が大事なことは言うまでもない。

日本への波及は?EPA停滞の恐れ


日刊工業新聞2016年4月26日


 英国の欧州連合(EU)離脱問題が日本の通商政策や企業の対外投資にも影響を及ぼす懸念が出てきた。英国は日本との経済連携協定(EPA)に前向きなため、離脱となれば交渉中の日・EUのEPAが停滞する恐れがある。また英国に進出する日系企業のEU輸出にも影を落とす。離脱の是非を問う6月の国民投票に向けた世論調査の結果は拮抗(きっこう)しており、先行きは予断を許さない状況だ。

 「EU離脱を決定すれば、英国にダメージを与えるだけでなく、日本にもEUにもダメージを与える」―。このほど、日本記者クラブ(東京都千代田区)で会見したティム・ヒッチンズ駐日英国大使はこう強調した。

 日本の対外直接投資のうち、英国は2015年に中国を上回り、米国に次ぐ規模。特に自動車分野の投資が底堅く、日本の投資がけん引し、現在、イングランド北部の自動車の年間生産量はイタリア全土の生産量を上回る。ヒッチンズ大使は生産された自動車の大半はEUへ輸出されており、「英国がEUから離脱すればEUへのアクセスは途絶える」と警鐘を鳴らす。

 16年中の早期妥結を目指す日・EUのEPA交渉にも水を差しかねない。同EPAは4月11―15日に第16回の事務レベルの交渉会合が実施されたが、目立った進展はなく、次回会合の日程は未定。漂流感も漂う中、「EPA支持派の英国がEU離脱となれば、交渉にどう影響するか…」と外務省幹部は先行きを懸念する。

 為替への影響も無視できない。みずほ総合研究所の吉田健一郎上席主任エコノミストは『みずほリサーチ4月号』で英国のEU離脱により英ポンドと欧州通貨全般が対ドルで下落すると予想した。同エコノミストは「円は逃避的に買われる可能性があり、日本にとっても対岸の火事ではない」と指摘する。

ファシリテーターの見方


 前段の記事では英国のEU離脱とサッカーの欧州選手権が関連付けて書かれているが、少々誤解が生む可能性がある。まずサッカー(およびラグビーも)のナショナルチームでいえば、英国は本4協会が別々に活動しており、英国代表というものは存在しない(ロンドン五輪では特別に結成された)。イングランド代表は有名だが、今回の大会は初めてウェールズと北アイルランドが予選を突破し本大会に参加している(しかもグループリーグではイングランドとウェールズが同組)。

 英国の政治情勢でいうと、長年、北アイルランドは独立運動が活溌で、スコットランドでも14年に独立の住民投票が行われ話題になった(55%が反対で否決)。英国のEU離脱問題は、スコットランド独立問題とも密接に関係している。英国がEUから離脱すれば、スコットランドはEUに加わると見られている。英財務省はEU離脱は30年までにGDPを約6%押し下げるという試算を公表。支持率低迷のキャメロン首相はスコットランドの独立阻止を含め、何とか残留を狙っている。しかし人気の高いロンドン市長のジョンソン氏らが離脱派に転じ、予断を許さない。
<続きはコメント欄で>
日刊工業新聞2016年5月4日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
サッカー欧州選手権の開催国はフランスで、決勝の会場は昨年テロの場所に一つになったサンドニ競技場。大会が無事に終わることを願う。ユーロは波乱の大会が多く開催国はあまり優勝できないが、あえてフランス代表を本命に推したい。EU残留派は決勝の前に国民投票があってよかったかもしれない。イングランド代表が優勝しようものなら、離脱派が勢いづく材料にもなる。

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