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iPS細胞とゲノム編集技術の強力タッグ!

慶大など、神経難病「ALS」の病態を再現
 慶応義塾大学医学部の岡野栄之教授らは、ヒトiPS細胞(人工多能性幹細胞)と遺伝子を挿入・削除できる「ゲノム編集」を組み合わせ、神経難病の「筋萎縮性側索硬化症(ALS)」の病態を再現することに成功した。健常者由来のiPS細胞にALSの原因となる遺伝子の変異を導入。同細胞を神経細胞に分化させると、ALS患者由来のiPS細胞を使う場合と同様の病態が現れた。

 ALSの病態解明や治療薬開発につながる可能性がある。東北大学大学院医学系研究科の青木正志教授、新潟大学大学院医歯学総合研究科の矢野真人准教授らとの共同研究。成果は18日、米科学誌ステム・セル・リポーツ電子版に掲載される。

 ALSは脳の指令を骨格筋に伝える神経細胞「運動ニューロン」に異常が起き、筋力低下や運動障害などの症状が出る。患者の約1割は血縁者の中に発症者がいる「家族性ALS患者」であることが知られている。家族性ALSはすでに複数の原因遺伝子が報告されており、研究チームは「FUS」と呼ばれる遺伝子に着目した。

 父親がALS患者で、FUS遺伝子に変異を持つ2人の兄弟患者の同意を得て、皮膚由来のiPS細胞を作製。同細胞が運動ニューロンへ分化する過程を解析した。

 その結果、FUS遺伝子が生成するたんぱく質が関わる異常や、細胞死などの複数の病態が現れた。さらにゲノム編集を使って健常者由来のiPS細胞にFUS遺伝子の変異を導入し、運動ニューロンへ分化させたところ、患者由来のiPS細胞を使う場合と同程度の病態を確認できた。
日刊工業新聞2016年3月18日 科学技術・大学面
斉藤陽一
斉藤陽一 Saito Yoichi 編集局第一産業部 デスク
2006年に京大・山中教授がiPS細胞の作成を発表し10年が経ちました。事故や病気で失われた組織を再生する再生医療の臨床応用に向けた動きも進みつつあります。

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