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ルネサスは先進運転技術で半導体エコシステムを作れるか

「製品単品ではなく、コース料理を出せるレストランになる」(大村常務)
ルネサスは先進運転技術で半導体エコシステムを作れるか

大村隆司執行役員常務

 先進運転支援システム(ADAS)や自動運転の本格普及を前に、半導体メーカーに求められる役割が広がっている。車載向け半導体の将来像を示し、それによりどんな新機能を実現できるかを訴求する取り組みが重要になってきた。ルネサスエレクトロニクスの大村隆司執行役員常務に、車載向け半導体を取り巻く環境や同社の戦略について聞いた。

 ―ADASや自動運転の実現のため車メーカーがIT化の取り組みを加速する中、半導体メーカーの立ち位置も変化してきました。
 「最近、当社は車メーカーから『10年後に半導体で何が実現できるか』といった問い合わせをよく受ける。走る、曲がる、止まるの制御とITの融合が、車メーカーにとって大きな課題となった。これまでは車メーカーと半導体メーカーの間には1次サプライヤーが介在していたが、直接対話を求められる機会が多くなったと感じる」

 ―そうした求めにどう対応しますか。
 「顧客の視点にもっと近づくことが重要と考える。当社の半導体で実現できる機能をモノを通じて体験してもらう。実際に『ADASカー』を試作し米ラスベガスで走らせた。マイコンやシステムLSIなどの性能をアピールすることはもはや重要ではない」

 「かつて当社は、いわば(材料の)”大根“や”にんじん“を『どうぞ』とやっていた。今はある程度の”料理“に完成させて提案している。すると顧客側もプロだから、自社技術と組み合わせて実現できる製品を想像できる。こうした関係を構築していきたい」

 ―顧客ニーズに沿った”料理“を提供できるかが問われますね。
 「自前ですべての材料を揃えられるとは思っていない。アルゴリズムやソフトウエアなど当社が手薄な部分は他社との提携や協業で補っていく」

 ―エコシステム(ビジネスの生態系)づくりが重要になります。
 「現在、(ルネサスの車載向けLSIと連携する製品・ソフトを開発する企業で組織する)『R―Carコンソーシアム』を展開している。さらにADASにフォーカスしたコンソーシアムを立ち上げる構想を練っている。餅は餅屋だ。当社はマイコン、LSI、アナログ、パワー半導体をしっかり進化させる。足りない部分はエコシステムでカバーして競争力を高める」

【記者の目・製品融合で顧客指向を進化】
 ルネサスが半導体製品別の事業体制から、車や産業機器向けなどのアプリケーション(応用製品)別の事業体制に移行して約2年。顧客志向ビジネスの芽が見えてきた。かつて存在した製品分野ごとの垣根が取り払われ、多様な製品を手がける強みが生きてくる。各製品の融合で顧客指向を進化させてほしい。
(聞き手=後藤信之)
日刊工業新聞2016年3月7日電機・電子部品面
後藤信之
後藤信之 Goto Nobuyuki ニュースセンター
ルネサスの車載向け半導体事業は、全社売上高の約半数を占める屋台骨。大村執行役員常務は、その車載事業のトップを務める。今回のインタビューでも〝料理”の例え話が出てきたが、「ルネサスは(製品単品ではなく)〝コース料理を出せるレストラン〟になる」というのが大村常務の口癖だ。ここ数年、同社は不採算製品から撤退する製品の選択と集中を進めており、車載事業の売上高も横ばいで推移している。これをプラスへと転換するためには、成長分野であるADASや自動運転向け製品で〝おいしい料理〟を提供することが不可欠となる。 (日刊工業新聞社編集局第一産業部・後藤信之)

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