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東芝が「がん治療システム」だけは自社に残す理由

海外からも注目される新しい重粒子線の治療とは?
東芝が「がん治療システム」だけは自社に残す理由

CTやロボット治療台を設置した神奈川県立がんセンターの最新治療室

がん治療システムの進化が著しい。これから国内の医療施設で最新システムが順次稼働していく。がんは日本人の国民病であり、2人に1人がなる。副作用が少なく患者負担を軽減できる新しい治療法への期待は大きい。東芝は日本での受注実績を武器に今後は海外展開にも力を入れる。

 神奈川県立がんセンター(横浜市旭区)の重粒子線治療施設「i―ROCK(アイロック)」では、2月から先進医療(保険診療併用)として重粒子線治療の実施が可能になった。アイロックは国内で5カ所目、世界で9カ所目の重粒子線治療施設であり、がん専門病院に併設されたのは世界で初めてだ。

 重粒子線や陽子線を照射するがん治療装置は東芝や日立製作所三菱電機、住友重機械工業などが手がけ、国内メーカーが強い競争力を持つ。

子会社売却も、原子力技術と切っても切れない関係


 アイロックには東芝が重粒子線がん治療装置を納入した。照射の位置合わせに使用する治療室内コンピューター断層撮影装置(CT)やロボット治療台などシステム一式を提供。同治療装置は線量の集中性が高く、狙った腫瘍をピンポイントで治療できる。

 腫瘍の周辺の正常細胞への影響が少なく、治療時に痛みも伴わない。重粒子線治療は従来の外科手術や薬物療法が適さない難治性がんにも有効であり、肺がんや肝臓がんなどは入院不要の短期治療(1―4日)が可能だ。

 東芝は不適切会計問題で悪化した財務体質を改善するため、ヘルスケア事業からほぼ撤退する。医療機器子会社の東芝メディカルシステムズ(栃木県大田原市)の売却準備を進めており、社内カンパニーのヘルスケア社も月内に廃止する。

 ただ、重粒子線がん治療システム事業は自社で継続する。東芝が今後注力する原子力事業と重粒子線がん治療システムは深い関わりがある。超電導や加速器が同システムの基幹技術であり、次世代技術を研究開発する上でも原子力事業と共通項が多い。

360度調整、集中照射への期待


 重粒子線がん治療システムは今後海外受注が見込めることも事業を手放さない理由の一つ。放射線医学総合研究所(放医研)と東芝が開発した回転ガントリー(照射機構部)採用の新システムは海外から注目されている。

 回転ガントリーに超電導電磁石を使った世界初の同システムは360度の任意の角度から重粒子線を病変部に照射できる。従来は一定方向からの照射だったが、多方向から細かく角度調整し重要器官を避けて患部への集中照射が可能になる。

 重粒子線治療システムに回転ガントリーを搭載したのは、ドイツの施設に次ぎ世界で2カ所目だが、独の回転ガントリーは全長25メートルと大型で普及が難しかった。新回転ガントリーは直径11メートル、長さ13メートルと小型で導入しやすい。放医研の新治療研究棟(千葉市稲毛区)では2016年度内に治療を開始する計画だ。

保険適用へ優位性実証を


 厚生労働省の先進医療会議は、これまで粒子線がん治療について優位性と保険適用の可否を検討してきた。現状では「先進医療A」の指定が継続され、混合診療が認められることが濃厚だが、指定が外れるようなことがあれば治療施設の運営にも大きな影響が出る。

 今後は医療機関側からも粒子線治療の優位性を判断できるデータを出していかなければならない。施設を新設した神奈川県立がんセンターは、先進医療で治療を受ける患者と健康保険を使ってがん手術を受ける患者の比較データを蓄積する臨床研究を計画している。
日刊工業新聞2016年3月4日「深層断面」から抜粋
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
東芝メディカルシステムズの売却先は富士フイルムとキヤノンの2社が有力と言われている。4日に2次入札を締め切り、来週にも1社を選んで独占交渉に入るとも。  がん治療装置事業は東芝、日立、三菱電機とも、もともと電力部門の傘下にある。台数自体は多くないが原子力機器事業がある限り開発も含め自社に置いておくのは当然の流れ。  それにしても最大7000億円にもなると言われる東芝メディカルの売却。自己資本が危険水域で、少しでも多くのキャッシュが入らないと東芝の存続も危ぶまれるので売却はしょうがないのかもしれないが、将来的なポートフォリオを考えるなら、残すのはヘルスケア事業で手放すのはメモリー事業ではなかったか(現実的には難しいのだが・・)

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