発光効率100%!九大ベンチャーの有機EL材「アップルでの採用目指す」
Kyuluxが実用化に一歩
Kyulux(キューラックス、福岡市西区、佐保井久理須社長、092・834・9518)は、九州大学が開発した第3世代有機エレクトロ・ルミネッセンス(EL)発光材料の実用化に向けて、産学連携の体制を構築した。産学連携ベンチャーファンドなどから総額15億円の資金調達を決め、同大などからは技術特許に関する実施許諾を得た。
米アップルが2018年モデルに使用予定のディスプレーへの採用を目指す。九州大発ベンチャーの同社は15年3月設立。安達千波矢主幹教授が12年に開発した第3世代の熱活性化遅延蛍光(TADF)材料の実用化に取り組んでいる。実用化を目指す発光材料は100%の発光効率を発揮することが可能。貴金属を使う第2世代に比べて低コストで製造できる。安達主幹教授は「福岡県、福岡市と連携し、九大を米国のシリコンバレーに匹敵する地域にしたい」と意気込みを語った。
九州大学の安達千波矢教授は、最先端研究開発支援プログラム(FIRST)で「スーパー有機ELデバイスとその革新的材料への挑戦」をテーマに研究を進める。2012年には有機エレクトロ・ルミネッセンス(EL)の次世代材料を開発。一方で13年度末のプログラム終了を視野に、事業化に向けた準備を始めた。
研究は九大に設立した最先端有機光エレクトロニクス研究センター(OPERA)に集結した幅広い連携により行われている。14社、14研究機関が参加し、約200人がかかわる。企業は各社1―3人の研究者をセンターに派遣する。
企業のほとんどは、FIRST以前から安達教授と共同研究を行っていた。ただ、それまでは手続きをはじめ企業ごとの一対一の関係。FIRSTによって「企業別の取り組みが一本化できたことで研究がスピードアップした」(安達教授)。また「化学、電気、装置の担当者が一緒にいて互いを理解するメリットは大きい」と連携の意義を語る。
12年には熱活性型遅延蛍光(TADF)材料を開発した。発光原理が従来の有機ELと異なり高効率。イリジウムなど希少金属(レアメタル)を使わないため製造コストを抑えられる。
開発を機に、10あった研究計画のサブテーマをTADF材料の開発に集約、変更し、研究資源を集中した。研究者によっては大幅なテーマ変更を伴ったが、安達教授は「10年に一度出るか出ないかの成果を逃してはいけない」と断行した。
研究と並行して取り組んできた知的財産権の管理は専門グループが戦略的に行い、約100件の特許を取得した。ただ、安達教授が“FIRST後”で懸念するのが知財分野。特許を維持・管理するだけでなく戦略的に生かすには相応の担当者が欠かせないが、14年度からの明確な態勢はまだ整っていない。
研究開発の成果を「シリコンバレーのように地域産業化したい」と安達教授。どのような形でかかわるかは未定だが、14年度以降に関連ベンチャーを興す準備をしている。
その思いに応えるような地域の取り組みがある。福岡県は12年度、OPERAの研究施設近くに「有機光エレクトロニクス実用化開発センター」を完成。関連製品の開発支援を行っている。また熊本県では有機エレクトロニクス関連産業の振興に産学官で取り組んでおり、OPERAは重要なパートナーだ。安達教授の研究は地域の期待を背負っている。
(文=西部・関広樹)
米アップルが2018年モデルに使用予定のディスプレーへの採用を目指す。九州大発ベンチャーの同社は15年3月設立。安達千波矢主幹教授が12年に開発した第3世代の熱活性化遅延蛍光(TADF)材料の実用化に取り組んでいる。実用化を目指す発光材料は100%の発光効率を発揮することが可能。貴金属を使う第2世代に比べて低コストで製造できる。安達主幹教授は「福岡県、福岡市と連携し、九大を米国のシリコンバレーに匹敵する地域にしたい」と意気込みを語った。
検証・最先端研究開発支援プログラム《九大・安達千波矢教授》
日刊工業新聞2013年10月17日
九州大学の安達千波矢教授は、最先端研究開発支援プログラム(FIRST)で「スーパー有機ELデバイスとその革新的材料への挑戦」をテーマに研究を進める。2012年には有機エレクトロ・ルミネッセンス(EL)の次世代材料を開発。一方で13年度末のプログラム終了を視野に、事業化に向けた準備を始めた。
研究は九大に設立した最先端有機光エレクトロニクス研究センター(OPERA)に集結した幅広い連携により行われている。14社、14研究機関が参加し、約200人がかかわる。企業は各社1―3人の研究者をセンターに派遣する。
企業のほとんどは、FIRST以前から安達教授と共同研究を行っていた。ただ、それまでは手続きをはじめ企業ごとの一対一の関係。FIRSTによって「企業別の取り組みが一本化できたことで研究がスピードアップした」(安達教授)。また「化学、電気、装置の担当者が一緒にいて互いを理解するメリットは大きい」と連携の意義を語る。
12年には熱活性型遅延蛍光(TADF)材料を開発した。発光原理が従来の有機ELと異なり高効率。イリジウムなど希少金属(レアメタル)を使わないため製造コストを抑えられる。
開発を機に、10あった研究計画のサブテーマをTADF材料の開発に集約、変更し、研究資源を集中した。研究者によっては大幅なテーマ変更を伴ったが、安達教授は「10年に一度出るか出ないかの成果を逃してはいけない」と断行した。
研究と並行して取り組んできた知的財産権の管理は専門グループが戦略的に行い、約100件の特許を取得した。ただ、安達教授が“FIRST後”で懸念するのが知財分野。特許を維持・管理するだけでなく戦略的に生かすには相応の担当者が欠かせないが、14年度からの明確な態勢はまだ整っていない。
研究開発の成果を「シリコンバレーのように地域産業化したい」と安達教授。どのような形でかかわるかは未定だが、14年度以降に関連ベンチャーを興す準備をしている。
その思いに応えるような地域の取り組みがある。福岡県は12年度、OPERAの研究施設近くに「有機光エレクトロニクス実用化開発センター」を完成。関連製品の開発支援を行っている。また熊本県では有機エレクトロニクス関連産業の振興に産学官で取り組んでおり、OPERAは重要なパートナーだ。安達教授の研究は地域の期待を背負っている。
(文=西部・関広樹)
日刊工業新聞2016年2月26日 中小企業・地域経済面