国産材で作ったエレキギター、いままでの常識を覆す音色の理由は?

京都大学大学院農学研究科 高部圭司教授ら分析

 国産木材である静岡県のミサクボスギでエレキギターを作製し、その木質形成と音響特性を分析研究するプロジェクトがウッドデザイン賞2015を受賞した。従来エレキギターに使用される木材は海外のものがほとんどだった。そこであえて日本の木材を使用した意義はなにか、完成したギターはどのような評価を得たのか。

針葉樹でやわらかい木材が使用される例は少数


 このプロジェクトは2009年に開始。創造再生研究所の小見山將昭所長が指揮を執り、国産材利用促進のため静岡県の水窪スギと北海道の栓(セン)を使ったエレキギター作製を開始した。2015年6月にギター完成後、使用した水窪スギの木質形成と音響特性について京都大学大学院農学研究科の高部圭司教授らが分析した。高部教授は「ギターは堅く年輪が細かい木材が使用されることが多いが、今回のは思ったより木目が広かった」と話す。同研究科の村田功二助教は分析結果について「ややメープル材に近い特徴がみられたが、楽器に向いているといえるほど特徴的な傾向は出なかった」と説明する。 

 エレキギターと木材の音響特性の関係について研究している同研究科生物材料設計研究室の前川遥樹氏は「ギターのボディーに使用される木材はマホガニー、アルダー、アッシュ、バスウッド。ネック部分に使用されるのはメープルと、だいたい素材が決まっており、そのほとんどが広葉樹で堅く目のつまったもの。今回のように針葉樹でやわらかい木材が使用される例は少数」と話す。

ポイントは乾燥


 しかし出来上がったギターの音色を聴いてみて、教授らは驚いた。音の抜けがよく、残響が豊かな、アコースティックギターのような今までのエレキギターの常識を覆す音色だった。色も美しく、木材自体が軽いため女性でも扱いやすい楽器に仕上がった。ギターの弦を張るネック部分もスギを使っている。スギのようなやわらかい木材だと「暴れる」と表現されるように反ってしまうことが多いが、現段階では安定している。

 高部教授らは、木材の乾燥工程に着目した。木材は60℃でリグニンとよばれる高分子が変質しやわらかくなり、120℃~130℃の高温になると細胞壁が分解して性質変化してしまう。今回使用したスギは8年間の天然乾燥と、45℃~55℃の低温乾燥を組み合わせているため、しっかりと乾燥されたうえに堅く変形しにくい木材になったと思われる。低温乾燥はギター職人の松井正博氏から株式会社セイリュウが依頼を受けた。

 外気が乾燥している海外に比べ、多湿な日本では楽器に適した天然乾燥が難しい。木材の性質と用途に合わせ微妙な調整がなされたことで、今回のような特性を持つギターを生み出すことができた。

 木材の色についても、「高温乾燥だと木材が茶色っぽくなってしまうが、低温乾燥のためマイルドな色味が出せている」(高部教授)。展示会にギターを出展した際には、外国人から、美しいと評価されることが多かったという。「音色だけでなく、見た目の美しさも楽器を選ぶ際の重要な要因。見た目の良さが評価された点も新たな発見」(前川氏)。

国産材活用の幅広がる


 このプロジェクトにあたりアドバイザーとなっていた本郷浩二林野庁森林整備部長は「楽器になかなか使うことのない針葉樹を使用しながらも安定しているということで、良い木材を使用できたのだろう」と評価した。また同庁沖修司次長はプロジェクトから木材選定の相談を2014年から受けており「色がとても綺麗な楽器に仕上がった」と驚いていた。

 「日本は森林国にもかかわらず、大半が建設用資材としてしか使用されていない。これはもったいないこと。国内にプロの音楽家は20万人、アマチュアを入れると1千万人の音楽家がいると言われている。日本の木でつくられた楽器に興味を持ってくれる音楽家が増えれば、国産材活用の幅も広がり、林業の活性化にもつながるのではないか」と小見山氏は話す。

 今後高部教授らは、今回作製したギターを使い音響特性を分析していく予定。

 <第1回ウッドデザイン賞奨励賞/受賞テーマと受賞者>
「国産木材エレキギターの木質形成と音響特性の分析」
  一般社団法人創造再生研究所
  株式会社MATSUIギター工房
  天竜T.S.ドライシステム協同組合
  国立京都大学農学部森林科学学科

ニュースイッチオリジナル

昆 梓紗

昆 梓紗
12月28日
この記事のファシリテーター

実際に音色を聴きましたが、あたたかく気持ちの良い音色で、アンプを通さなくても豊かな響きが広がりました。国産の他の木材でも製作に挑戦してほしいと思います。

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