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好調マツダを陰で支える水性塗装技術「アクアテック」とは

VOCとCO2を同時に削減。「スカイアクティブ」車の評価につながる
好調マツダを陰で支える水性塗装技術「アクアテック」とは

「アクアテック塗装」技術について説明する圓山常務

 自動車の車体工場で最もエネルギーを使い二酸化炭素(CO2)を排出する工程が塗装だ。通常の油性塗料による塗装は電着、中塗り、ベースと上塗りという4重に塗り重ね、3回にわたり高温乾燥する。この乾燥工程でエネルギーを消費する。しかも油性塗料は環境負荷の高い揮発性有機化合物(VOC)を多く出す。VOC削減に向け水性塗料への切り替えが進んできたが、有機溶剤に比べ乾きにくく乾燥炉のエネルギー使用が増えるジレンマがあった。

 「アクアテック塗装」は、このジレンマを解決する水性塗装技術として評価された。一般的な油性塗装工程に比べ排出するVOCを76%、CO2を15%減らせる。ラインの長さは80メートルと、一般的な油性塗装ラインの265メートルに比べ大幅に省スペース化した。

 2009年から12年にかけて本社の宇品第1工場(広島市南区)で導入を終え、今は中国南京の工場で切り替えを進めている。いずれ世界の工場でこの塗装方式に統一する方針だ。

 アクアテック塗装の最大の特徴は、中塗りを廃止した点にある。中塗りはグレーのような地味な色の塗料で、下の電着層の色が表面色に透けて見えるのを抑える発色性向上機能に加え、小石などが当たったときに塗膜が割れるチッピングの防止機能がある。

 マツダはこうした中塗り塗料の機能とその原理を分析し、ウレタンクリア塗料と水性ベース塗料に分担させることに成功した。圓山雅俊常務執行役員は「中塗りを塗るという常識を疑い、塗装技術の細かいところまで突き詰めて研究したからできた」と話す。

 製造現場への導入でも苦労した。従来の油性塗料と新しい水性塗料を同一ラインで混流生産しつつ徐々に切り替えていった。「塗装ブース内のミストまで管理する必要がある。よそではほとんど不可能ではないか」(圓山常務執行役員)。現場の苦労はデザイン性に優れた「スカイアクティブ」車の好評として実った。
(文=広島・清水信彦)

 ※同技術は「第6回ものづくり日本大賞」(政府主催)で内閣総理大臣賞を受賞
日刊工業新聞2015年12月16日自動車面
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役ブランドコミュニケーション担当
次世代エンジンの「大排気量化」など最近のマツダは常識を疑うことをいとわない姿勢が良いクルマづくりに結びついている。

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