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「巾着袋」を使った返礼文化を現代風に昇華させた女性起業家

宮城・亘理町で生まれたWATALIS。高品質を追求し“復興グッズ”のイメージを払拭
「巾着袋」を使った返礼文化を現代風に昇華させた女性起業家

引地さん(右)とWATALISの代表的商品「FUGURO」

 艶やかな着物地に、ビビッドな色の裏地を組み合わせた巾着袋。ひもの先にあしらわれたぼんぼりが特徴だ。

 「FUGURO」(ふぐろ)は仙台市から南に30キロメートルほど離れた宮城県亘理町で生まれた。この町には着物の端切れを縫い合わせて、巾着袋を手作りする風習があった。ちょっとしたお礼をするときに、コメを入れて持参するためだ。

 昔ながらの返礼文化を現代風に昇華させたのは、WATALIS(宮城県亘理町)代表の引地恵。2013年4月から一般社団法人として活動していたが、今年5月に株式会社化。ネット販売に加えて、百貨店などで事業展開を加速する。

 作り手は地元の女性。作り方を教え、家庭で作業できるようにする。子育てや家事をしながらでも働ける。地方創生のモデルとして全国から注目を集めている。

 引地は亘理町郷土資料館の職員だった。担当する企画展のテーマとして与えられたのが「着物」で、町の返礼文化について知る。企画展の最中に、東日本大震災が発生。引地は町役場職員として復興支援に奔走する。

 その一方で、11年10月に巾着袋の制作に着手した。伝統文化を再現するためで「ビジネスになるとは考えていなかった」。制作メンバーは引地を含め3人。ホコリをかぶっている着物を洗い、庭で干して、布地を切る。昭和初期に作られた実物は裏地が付き、両側から引っ張って閉じる。「受け取った相手のことを考えているアイテムだと感じた」。

 復興バザーに出展するうちに人が集まってきた。品質が上がり、売り上げが増え、生地を買えるようになった。「売るからにはいい商品にしよう」と、ぼんぼりをつけ、裏地にはビビッドな色の生地を取り入れ、現在の形に近づいていった。

 最近は企業などとのコラボレーションを推進する。「復興グッズ」のイメージを払拭(ふっしょく)するためだ。「一過性の人気でなく、質が担保されているブランドというイメージを高めたい」。例えば人気スタイリストの地曳(じびき)いく子プロデュースの商品を展開し、流行感を取り入れた。アイリスオーヤマ(仙台市青葉区)とは、亘理町で精米した「アイリスの生鮮米」とのコラボギフトを発売した。

 引地は言う。「ある集まりで『FUGURO』で東京オリンピックの公式グッズを目指すと言ったら笑われたんです。本気なのに」。WATALISなら、かなえられるかもしれない。
(敬称略、文=森崎まき)
日刊工業新聞2015年08月31日 中小・ベンチャー・中小政策
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
宮城、地元の文化、女性起業家といえば気仙沼ニッティングの御手洗瑞子さんを思い浮かべる。しかも御手洗さんも引地さんも日本政策投資銀行の女性起業家ビジネスコンテストの受賞者。でも二人のバックグラウンドがまったく違う点は興味深い。地元の文化を新しいビジネスとして作り込む事例は全国で増えてきている。 御手洗さんの記事はこちら。 https://newswitch.jp/p/268

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