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「弱者連合」でサムスンに勝てるのか

東芝メモリ「日米韓」売却、SK軸にシナジー見込む
「弱者連合」でサムスンに勝てるのか

サムスン電子公式フェイスブックページより(写真はイメージ)

 東芝は半導体子会社「東芝メモリ」を、米ファンドのベインキャピタルが主導し韓国SKハイニックスなどが参加する「日米韓連合」に売却する。

 今回の東芝メモリ売却に直接関わることはなかったが、韓国から目を光らせていた企業がある。東芝メモリが手がけるNAND型フラッシュメモリーで世界トップの韓国サムスン電子だ。

 「サムスンは日米韓連合による買収を嫌がっていた」―。半導体業界に詳しい関係者は明かす。NANDメモリー事業は毎年、数千億円の投資が必要な金食い虫。データセンター向け需要の拡大で、投資競争はさらに激化する。

 サムスンは7月に今後、2兆円規模の投資を実行する計画を示した。東芝メモリも岩手県北上市に新工場を建設する計画で巻き返しを図るが、資金確保が課題。日米韓連合の対抗馬「日米連合」は中核企業であるWDに資金余力が少なく、「東芝メモリを買収しても弱者連合になる」(業界関係者)との指摘があった。
サムスン電子の最高経営責任者(CEO)の権五鉉(クォン・オヒョン)副会長

 一方、日米韓連合は買収額の2兆円のほか、設備投資や研究開発費などで4000億円を用意する提案を示したとされる。同連合による買収で、東芝メモリの投資余力が高まるのは間違いない。

 韓国SKハイニックスとは製品面のシナジーが見込める。中国スマホはDRAMと呼ぶ半導体メモリーとNANDメモリーをセット搭載することが多い。SKのDRAMとNANDメモリーを組み合わせれば、東芝は両製品を手がけるサムスンと同じ土俵に立てる。

 SKグループの半導体事業はSKテレコム社長のパク・ジョンホ氏と、SKハイニックス副会長のパク・ソンウク副会長が軸をなす。東芝関係者は「半導体ビジネスをよくわかっているコンビ。話の通じる相手だ」と評価する。

 東芝メモリの買収スキームではSKハイニックスは当初は転換社債の形で資金を拠出し、転換後も議決権比率は15%程度に抑える方向だが、SKは21日に「当社の利益になるよう交渉を続ける」とコメントを発表。

 権益拡大を目指す姿勢をにじませた。業界関係者も「将来はSKグループに統合しようとしているはず」と指摘する。SKハイニックスとの関係を深めつつ、経営への過度な関与をけん制する高度なかじ取りが必要になる。
                  

                 

(文=後藤信之)
日刊工業新聞2017年9月22日の記事から抜粋
後藤信之
後藤信之 Goto Nobuyuki ニュースセンター
 東芝とWDは、NANDメモリーを生産する四日市工場(三重県四日市市)の生産設備を共同投資している。東芝メモリ売却をめぐる対立で両者の関係は悪化したが、「簡単に提携関係は解消できない」と東芝関係者は明かす。メモリー生産を支えるサプライヤーからは「四日市工場の運営にもSKハイニックスは口を出すようになるだろう」(半導体製造装置メーカー幹部)との指摘があがる。東芝メモリ、WD、SKの思惑が一致し、サムスン対抗軸を築ければ理想的だが、そう簡単ではない。まず3者の利害関係をどう調整するかが優先課題だ。失敗すれば、競争力の要である四日市工場の価値が毀損(きそん)しサムスンの背中が遠のく。

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