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炭素繊維とアルミ、量販車への採用を後押しする成形・加工の進化

炭素繊維とアルミ、量販車への採用を後押しする成形・加工の進化

三菱ケミの新技術を使ったバックドア構造部材(カットモデル)

 自動車への炭素繊維強化プラスチック(CFRP)、アルミニウムの採用が拡大している。いずれも成形しづらい材料だが、世界的に自動車の環境規制や燃費向上のための軽量化ニーズは強く、プレス機械メーカーや加工会社が技術開発など対応を求められている。アルミ、CFRPをめぐる自動車、材料、機械メーカーの動向を追った。

 自動車メーカーはこれまで、スポーツカー向け部品を中心にCFRPを取り入れてきた。世界的に環境規制が強まる中、車両の軽量化・燃費改善につながる部材として、今後は量販車での採用拡大も期待される。異業種でも需要の伸びを見据え、三井物産がCFRP関連の海外企業に相次ぎ出資している。

 日産自動車はスポーツカーの「フェアレディZ」「GT-R」に採用。GT-Rでは1999年に同「R34」のリアディフューザーを皮切りに、プロペラシャフトやトランクリッド、バンパーなどの部品に採用を広げている。ホンダはスポーツカー「NSX」のルーフやフロア部分、また燃料電池車(FCV)「クラリティ フューエルセル」の水素貯蔵タンクに用いている。
「GT−R」のフードなどにCFRP

 トヨタ自動車レクサスの「LC」などに加え、プラグインハイブリッド車(PHV)「プリウスPHV」のバックドアの構造部材にも採用。大幅な軽量化を実現した。量販車でCFRPを使うのはまだ珍しいが、今後は採用拡大が期待される。

 自動車各社はアルミの採用にも積極的だが、この分野では高級車中心に採用する日本勢に比べ、欧米車が先行しているようだ。好例が米フォード・モーター。量産車種のピックアップトラック「F-150」の15年モデルで、アッパーボディーをオールアルミ化。旧車種に比べ、約320キログラムも軽量化を実現した。米テスラの電気自動車(EV)「モデルS」もオールアルミだ。

炭素繊維メーカー、成形関連の企業買収


 炭素繊維は原料のポリアクリロニトリル(PAN)繊維などを不活性雰囲気下で焼成するなどし、炭素以外の元素を離脱させた無機繊維。比重は鉄の4分の1で比強度は10倍。寸法安定性や耐熱性、耐薬品性に優れる。熱硬化性や熱可塑性を持つさまざまなマトリックス樹脂と組み合わせ、複合材料に加工したものがCFRPだ。

 CFRPが量販車に使われ始めた背景には、自動車メーカーによる車体の軽量化・燃費改善と成形技術の高度化、生産コスト低減がある。CFRPの重量当たりの生産コストは鉄鋼の5―10倍程度とみられ、主な需要はF1(フォーミュラワン)カーや欧州の高級自動車だった。

 成形技術の開発をリードするのは東レ帝人三菱ケミカルの炭素繊維メーカーだ。量産車を圧力容器や風車用羽根(ブレード)などと並ぶ市場の“本丸”に位置づけ、成形方法の開発や知見を持つ企業の買収を積極化している。

 炭素繊維メーカーは樹脂の知見も豊富で、成形時間を短いもので数分単位まで大幅に縮めた。また、自動車メーカーが求めてきた複雑形状部品に対応するCFRPの開発も大きく進展させた。

 東レは筒状部品の成形に向く方法で製造したCFRP製のプロペラシャフトを、多くの日系自動車メーカーに供給する。三菱ケミカルは17年に入り、シート・モールド・コンパウンド(SMC)と呼ぶ生産性を向上したCFRPがトヨタの「プリウスPHV」の骨格部材に採用された。
          


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日刊工業新聞2017年7月12日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
アルミと炭素繊維を単純に比較することはできないが、車種をみるとまだまだ量販車という感じ。でもこの記事は成形や加工に焦点を当てているのが面白い。ちょうど先週、塑性加工技術の専門展示会「MF―Tokyo2017」が開催されたこともあり、完成車や部品メーカーと機械メーカーの連携にも注目。

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