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「風の秋田」を創る、風力発電で秋田消滅の危機を救え

秋田の地元企業、ウェンティ・ジャパンの挑戦
「風の秋田」を創る、風力発電で秋田消滅の危機を救え

秋田潟上ウインドファーム 完成予想図(画像提供:清水建設)


地域創生に人生を賭ける


 ウェンティ・ジャパンはすでに稼働中のものを含め秋田県内外に8箇所37基の風力発電施設を開発している。社長の佐藤裕之氏は、コンソーシアム「秋田風作戦」の会長も務める人物。秋田の地域創生に人生を賭けて取り組むひとりだ。

 18歳のとき、大学進学で東京へ。大学を卒業したのちも東京に留まり、外資系企業でIR(インベスター・リレーションズ)コンサルタントとして働いていた佐藤社長。「東京で働いた時代は青春でした。でも一方で、自分で企業経営をしたこともないのに、上場企業の社長に物申すなどというのは、どこか居心地が悪いところもありました」と語る。

 「今から21年前、父親が営む羽後設備の後継者として秋田に戻りました。久々に見た秋田はもう、衰退しきっていた。人口減少率、高齢化率、婚姻率、出生率最低。おまけにがん死亡率日本一。どうしたことだ、と衝撃でした。秋田の経済にどっぷりはまって21年。なんとか秋田を元気にできないか、賦活するものがないか。地域再生のための事業展開をひたすら考え取り組んできました。」(佐藤社長)
株式会社ウェンティ・ジャパン代表取締役社長 佐藤裕之氏

 佐藤社長が最初に風力に興味をもったのは、十数年も前だった。かつて、秋田に雇用を生むために県と市と組んで東京に本社を置くコールセンターを誘致。当初200人でスタートしたそれは、今では秋田だけで約1700人のオペレーターを擁する一大コールセンターとして、いわゆるBPO(ビジネスプロセス・アウトソーシング)を請け負っている。具体的なサービスは、損保会社の受付、クレジットカードの海外での事故や病気保険対応など。ある日、経営者からこう言われた。「事故や天変地異があったとき動いていなければならないここが、電源を喪失したらどうなる?」と。

 まず、電気系統を二重化した。ディーゼル発電機はせいぜい十数時間しかもたない。NAS電池について調べてみれば、4-5億円かけても数時間しか持たないうえに劣化してしまうことが判明。太陽光でコールセンターの電源をまかなうには巨大な用地が必要・・・。そして風力もまた、必要投資額が大きすぎて手が出るものではなかった。

 その後、東日本大震災によって原子力発電所が止まった時、佐藤社長は考えた。「原発が止まっているあいだに、日本の電力アロケーションの一定量を秋田の風が占められるようになるんじゃないか」。同じ頃、秋田の風を県の産業にしたいと考えていた北都銀行と意気投合して2012年9月、ウェンティ・ジャパンを設立。地元企業として風力発電事業に参入する初の企業を立ち上げた。

 ウェンティ・ジャパンの場合、設備を買ってウインドファームを建て発電すればよい、というわけではない。彼らのミッションは、秋田経済を再生することにあるからだ。

 部品点数がクルマ並みに多く、大型機械なので物流コストがかかる風力発電設備。部品供給をはじめとする製造業を県内で立ち上げられないか、と考え、北都銀行らと一緒になって2013年には秋田風力発電コンソーシアム「秋田風作戦」を設立、佐藤社長はその会長も務めている。「県の公募で選定いただいた秋田潟上ウインドファームの企画提案には、地元の活性化や地域貢献という視点を盛り込みました。まさに、秋田に戻って以来の僕のライフワークです」(佐藤社長)。 その計画は、秋田を風力発電の部品製造・供給拠点にする、というものだった。

 秋田潟上ウインドファームを運営するSPC(特定目的会社)の設立において、三菱商事パワー(東京)、中部電力子会社のシーテック(名古屋市)と手を組んだ理由は、いずれも地域経済の再生への理解があったこと。大型風力タービンメーカーは秋田にはない。GE(アルストムと合併)を採用したのも、「日本の風況に合わせて開発された製品スペックやグローバルの実績値だけでなく、フレキシブルな姿勢が感じられたため。ただのモノ売りではなくて、タッグを組んでその先も、地域の再生に向けて一緒に何かをやっていける期待感が持てたからです」(佐藤社長)

 県の新エネルギー産業戦略もコンソーシアムも、風力発電に関する技術力と知見を培うことで、秋田から県外、ひいては世界へと技術やサービスを提供していく存在になることを目指している。

 「いわゆる“地方創生”の事例は国内に様々あるものの、しっくりくるものがありません。中央からみた“地方“ではなく、われわれは、地元秋田のためにやっている。中央資本に吸い上げられて弱体化した地域を再生させるため“外に反撃しよう”というくらいの気概で、ダイナミックな動きを仕掛けていきたいんです」

 「真のグローバリゼーションは、論理を植えつける“植民地化”を広げることではなく、ローカリゼーション、つまり地域のニーズに根ざし、対等に学び合い、利益を共有できるの関係作りを広げることで果たせるもの。GEの考え方と我々の考え方は、共通しています」(佐藤社長)

 今後の建設には、地元のエンジニアたちが大勢携わることになる。GEはまず、地元企業との協働で秋田県内にサービス拠点を設置することを決めている。秋田潟上ウインドファームの高稼働率を維持するために現地に風力タービンの部品をストックし、メンテナンスのためのダウンタイムを最小限に抑える。

 GEリニューアル・エナジーでプロジェクト&サービスダイレクターを務める山本朋也氏は「建設からメンテナンスまで、地元企業との連携を図ることは、コストとオペレーションの両面において合理化や効率化に繋がります。実際、いま建設が進む向浜風力発電所では、風力タービンの土台作りのための部材を地元企業が製造・供給してくださっています。このように、地元企業との連携で合理化を図れるポイントでは、積極的に設計データなども提供していきたい」と話す。

 また、O&M(保守・メンテナンス)も稼働率保証のための重要なファクター。「たとえば、GEと地元企業とが5:5でチームを作り、GEが培ってきた風力発電のノウハウを共有していきたい。東北を中心に国内で稼動するGEの風力発電設備の高稼働率を保証するためにも、地元エンジニアのサポートが欠かせません。地域における雇用創出に繋がることも願っています」(山本氏)

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松木喬
松木喬 Matsuki Takashi 編集局第二産業部 編集委員
 このコラムを読むと、昨年12月の秋田取材を鮮明に思い出します。コラムに登場するウェンティの佐藤社長も、私の記事に登場する方もみなさん、危機感を持っていました。コラムで印象的だったのは、県の経費の持ち出しがほとんどないこと。規制緩和とありますが、地元の方が本当に必要と感じてやっている事業は、補助金がなくても成り立つ、持続可能な事業になると思います。あと経験豊かな大企業との連携。すべて大企業に丸投げしてやってもらうのでは工場誘致と同じです。進捗を知るために、今年も秋田に行きたいです。

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