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次世代モビリティ、「日独」自動車産業の挑戦

エヌ・アール・ダブリュージャパンのセミナーから見えてきたこと
 自動車大国の日本とドイツ。よく比較される両国だが自動運転など次世代モビリティ-においては、「競争と協調」によって技術革新が進んでいる。ドイツの中でもノルトライン・ヴェストファーレン(NRW)州は産学連携などで成果を上げている。

 NRW州はドイツの最も西に位置し、人口、GDP、海外からの直接投資ではドイツ16州でトップ。自動車産業でも完成車からサプライヤーまで800社が集積する。またサッカー日本代表の香川真司選手が所属するボルシア・ドルトムントが本拠地を置くことでも有名だ。

 5月12日(金)、日本におけるNRW州の窓口になっているエヌ・アール・ダブリュージャパンが「次世代モビリティ 日独自動車産業の挑戦」と題したセミナーを開催。その登壇者たちの発言から、NRW州、ドイツの取り組み日本との比較などを紹介する。

トラックの隊列走行で求められること


 日本でも実証実験が始まっているトラックの隊列走行。ドイツでは4台、車間距離10メートルで既に高速道路(公道)で実証試験を実施していた。日本は少し遅れて、車間距離4メートル、台数は当初3台から4台に。ただし、開通前の高速道路での試験段階である。車間距離を縮めることで空気抵抗が減り、4台であれば20%燃費が改善される。さらに長距離ドライバー不足は日本だけでなく欧米でも問題になっており、完全自動による隊列走行の期待は大きい。

 立命館大学の深尾隆則教授は「最優先課題は安全性の確保。車間距離4メートルだと、前が見えにくい。それで、日本のエネルギーITSプロジェクトでは、『真下』を見る技術が特徴。自動運転では、真下を見ると安定走行が難しいが、新しい制御や車のダイナミクスで対応している」という。

 通常時は横方向に最大で20センチメートルしか誤差がでないという。突風が吹いたとしても、だいたい白線が20センチメートル幅なので、大きな問題にならない。ただ制御には工夫が必要だった。

 「今までは前だけを見ていたが、後ろ側の距離、速度を通信で受け取り車を制御している。電波だけでは不安なので、光通信を利用して多重化させた。線を見るのもカメラだけではなく、レーザーで白線があるところとないところの区別ができるような仕組み。前方方向もミリ波レーダやステレオカメラも使い安全性を担保している」(深尾教授)。
立命館大学理工学部 深尾隆則教授

 実用性を向上するためには、課題は道路上のへこみだったり、障害物をセンサーで発見する必要があること。それに対応した制御をすると、乗り心地が悪くなったりと、運転手が気持ち悪くなってしまう。乗り心地と安全性を両立させないといけない。

 「人間が窓の外を見ている時に、自分の予測と車の動きが違うと、酔いが発生する。安全に走らせるだけではなくて、人間の目のモデルで数式を作り、それを制御に入れ込んでいる。自動車の制御というより、人間の目からの情報をベースにした制御方法を考えている」(同)。

スタートアップの未来


 ベンチャーやスタートアップにも勢いがある。2015年4月設立のe.GO Mobile社は、アーヘン工科大学を拠点とし、小型電気自動車(EV)「e.GO Life」の開発を手掛ける企業で、産官学が連携している。

 「e.GO Life」は2018年春からアーヘンのテクノパークで量産される予定。4月25日には、最高経営責任者のギュンター・シュー教授(CEO)、NRW州経済大臣、クラスタパートナーが一堂に会する中、生産開始の発表が行われた。エヌ・アール・ダブリュージャパンのゲオルグ・ロエル社長は「純粋な電気駆動であるe.GO Lifeは3つの特徴を持つ。それは走る楽しさ、実用性と手頃な価格である。モダンなデザインと俊敏な走行性能を持つこのEVは、シティーカーとして都市部や短距離の走行に最適だ」と話す。
 
 「e.GO Life」は1台1万5900ユーロからと競争他社よりも圧倒的に低価格。ロエル社長は「安さの理由の一つに、純粋なるEVとしての設計が挙げられる。そしてもう一つの理由は、アーヘン工科大学の強みである高効率な生産だ」という。
「e.GO Life」Copyright:e.GO mobile AG

 アーヘン工科大学には、自動車・車両研究所(IKA)があり、また繊維技術研究所(ITA)などで自動車向けの素材を作っている。その近くにはデンソーオートモーティブエンジニアリングセンターがあり、今は150名ほどのエンジニアが働いている。

 デンソーは日本で知名度は高いが。欧州ではまだそれほど知られているわけではない。優秀なエンジニア、学生を獲得するため、NRW州でインサイダーになる努力をしている。

アーヘン工科大と日本の大学との違い


 欧米の有力大学と日本の大学で違いは何か。立命館大の深尾教授によると、「例えばアーヘン工科大学は、テストコース二つも持っていて、実験するような場所がある。博士課程に多くの人材が集まっている。日本はほとんど修士課程から企業の研究機関に行く。技術が複雑になり、大学の時間だけでは対応できなない。先端技術と大学で習うことの差が、開いてしまっいる」のだ。

 アーヘン工科大学では、施設から実験装置すべてがすごい。日本はこのような大学で学んだ研究開発人材と競争しないといけない。「ドイツや米国になかなか勝てないという話が出るのは、この差が大きいからだろう。人材をいかに育てるかにおいて日本はまだ弱い」(深尾教授)。
WAGOジャパン 吉田秀二部長


「インダストリー4.O」への進化


 自動運転によるスマートモビリティ-社会の実現においてはドイツ、日本とも超えるべき壁は多い。例えばスマートグリッド。WAGOジャパンの吉田秀二部長は「いまだドイツではEVのチャージステーションが不足し、普及にブレーキがかかっている」という。

 例えばWAGO本社ミンデンから、デュッセルドルフまで約220キロメートル。ドイツは街と街の間の距離が離れており、この距離になると今のEVでは往復できない。日本においてもEVは、スマートグリッド、スマートコミュニティの中で存在すべき、という考えがある。

 「例えば太陽電池によるチャージステーションは、車と充電器ではなく充電側と電力ネットワークの接続が欠かせない。WAGOはバッテリーをスマートグリッドに接続する「IEC61850」搭載のコントローラを商品化、このコントローラは工場内の設備にも使われている」(吉田部長)。

 ドイツではスマートモビリティーからスマートファクトリーまでが体系化され「インダストリー4.0(第4次産業革命)」が進行している。日本企業の中でもインダストリー4.0を取り入れようとする動きは大きくなってきている。自動車部門に限らず、さらなる革新を求める日本企業にとって、ドイツとの協力は不可欠だ。NRW州は最適な立地拠点となるだろう。
エヌ・アール・ダブリュージャパン ゲオルグ・ロエル社長

 国土交通省と経済産業省は2020年までに国内新車販売に占める自動ブレーキ搭載車の比率を9割超に高める方針だ。15年時点の同搭載率は5割を下回っており、今後2―3年程度で加速的に普及する見通しである。

 先進安全技術が実質的にほぼすべての市販車に搭載されることで、高齢運転者による交通事故防止や被害軽減が期待できる。また2020年は東京オリンピック・パラリンピックが開催される。自動運転車の早期実現に向けた社会実装や技術革新のエポックイヤーになるだろう。

 日本はオープンイノベーションや構造改革で社会課題を解決する「ソサエティ5.0」のコンセプトを打ち出し、ドイツとの政府間では今年3月、第4次産業革命に向け共同声明「ハノーバー宣言」を発表、研究開発や標準化などでの協力関係を進めていくことにしている。
「次世代モビリティ 日独自動車産業の挑戦」セミナー風景

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