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中国の医師がマウスの首すげ替え手術1000回、夏にはサルで実験へ

人での難病治療が目的、倫理面で疑問の声も
中国の医師がマウスの首すげ替え手術1000回、夏にはサルで実験へ

実験用のマウス RAMA/WIKIMEDIA COMMONS (CC BY-SA 2.0 FR)

 フランケンシュタイン博士ばりのマッドサイエンティストか、はたまた最先端の術式で人の命を救うブラック・ジャックかドクターXー。マウスの首のすげ替え手術に1000回近く取り組んでいる中国・ハルビン医科大学の医師への取材記事を、6日のウォールストリートジャーナル紙が掲載した。この医師は米シンシナティ大学などで教員を務めたレン・シャオピン氏で、将来、こうした技術が確立されれば、脊髄損傷やがん、筋萎縮性側索硬化症(ALS)のように、病気やけがで頭以外の部分が機能せずに苦しんでいる患者を救えるようになると主張する。今年の夏にはサルでも同様の移植手術を始める計画という。

 レン氏がマウスの頭部移植に乗り出したのは2013年。米国の大学にいる時は倫理上の問題から周囲に反対され、資金も集まらないため、2012年に生まれ故郷のハルビンに戻り、母校で研究を始めた。中国では倫理委員会の承認を得られただけでなく、中国政府と大学から約1000万元(約2億円)の資金提供が受けられたという。

 彼の編み出した術式では、頭部を切断すると脳への酸素供給が断たれ脳細胞がダメージを受けることから、切断後すぐに頭部と移植先の体の大動脈とをシリコーンチューブでつなぐ、といった工夫をしている。さらに心肺機能を維持できるよう、移植先の脳幹を残したまま頭部をつないだり、脊髄部の神経接合にポリエチレングリコールを使い神経の再生を促進する、といった手法も導入した。それでも手術を受けたマウスが生きている時間はせいぜい1日。神経がどれだけつながるかや、免疫反応の問題もあり、解決すべき課題は多い。

 4月には中国広東省の中山大学などの研究チームが、最先端のゲノム編集技術である「CRISPR/Cas9」(クリスパーキャスナイン)を使い、世界で初めてヒトの受精卵の遺伝子を編集したとの論文を発表し、世界的に物議を醸したばかり。中国は自然科学分野でのノーベル賞受賞を含め、科学技術の発展に国を挙げて取り組んでおり、そうした方針がレン氏の研究を後押しする原動力ともなっているようだ。

 臓器移植や体外授精も最初は異端視されてきたが、長い時間をかけて議論を深めることによって社会に受け入れられるようになってきた。というのも病気や不妊で本当に困っている人たちがいるためだ。首のすげ替えも、ホラー映画ばりに人間ですぐに行われることはすぐにはないと思われるが、技術の進展は案外早かったりする。実際、イタリアのセルジオ・カナヴェロ医師も、人間での頭部移植手術について2年以内の実施を計画しているとされる。

 WSJ紙はレン氏の取り組みについて「まったくばかげた発想だ」という医療倫理が専門のニューヨーク大学教授のコメントを紹介しているが、改めて科学技術と倫理とのバランスの難しさを際立たせることになりそうだ。
ニュースイッチオリジナル
藤元正
藤元正 Fujimoto Tadashi
『ブラック・ジャック』には人も人以外も含めて命の尊さをテーマにした話が多い半面、馬の脳を人間に移植したり、医療倫理どころではないトンデモなストーリーもけっこうありました。そもそもが医師免許を持っていないので倫理もへったくれもないのですが、ま、漫画ですからね。

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