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僕らが伝えよう、スタートアップの極意を。アップル黎明期を支えた2人のカリスマ

僕らが伝えよう、スタートアップの極意を。アップル黎明期を支えた2人のカリスマ

ウォズニアック氏(右)とガイ・カワサキ氏


元アップル・チーフ・エバンジェリスト ガイ・カワサキ氏


「起業家の間違いトップ10」


 自分は起業家としてだけでなく、投資家、著述家、講演者としても起業家にかかわり、多くのことを学び、たくさんの失敗をしてきた。

 もはや人生の3分の2を過ごしたが、残りの人生でも二つの単語を忘れないでいたい。それは「エンパワー・ピープル(他人に力を与える)」ということだ。そこで、自分の経験から「起業家が犯す間違いトップ10」を紹介したい。

プレゼンよりプロトタイプ


 まず、一つ目の過ちがピッチ(プレゼンテーション)に重点を置くこと。ピッチには資金集めという目的もあるが、そもそも会社を始める本当の理由は世界を変えることにある。

 スティーブ(ジョブズ)は「宇宙に凹みを付ける」と言っていた。やるべきことはピッチよりプロトタイプに主眼を置くことだ。

 2番目は売り上げ予測を示すのに、非常に大きい市場規模に単純に1%をかけるようなやり方。実情とかけ離れた数字が出てきたりする。

 解決策としてはボトムアップ方式がより有効だ。自社のウェブサイトを訪れた月間ユニークユーザーが20万人いたとして、その1%を潜在顧客ととらえるような考えの方がいい。

 3番目は、速くスケール(成長)すること。これまで速くスケールしなかったからと言って倒産した会社を見たことがない。売り上げが入ってきて初めて成長するわけで、「自分の食いぶちは自分で稼げ」と言いたい。

 四つ目はパートナーシップづくり。個人的にパートナーシップはたわ言だと思っている。収入や販売に言及しないで人を惑わせる。対処法は「販売に注力せよ」で、大事なのは「セールス・フィックス・エブリシング(販売はすべてのことを解決する)」だ。

ニッチを狙え


 五つ目は市場での優位性。76年にスティーブとウォズニアックがアップルを立ち上げたとき、その時すでに壮大な市場支配のプランがあったというのは神話にすぎない。

 2人で自分たちが使いたいものを作っただけ。小型で安価で使いやすいコンピューターを目指し「アップルI」を完成させた。スタートアップも自分たちで使いたい製品を作る際には、ニッチを狙うべきだ。

 プレゼンにたくさんのスライドを使うのが6番目。プレゼンには10―20―30のルールがある。10は1回に見せる最大のスライド枚数。

 20は最長20分、30は理想的なフォントサイズが30ポイントということ。スライドの背景も真剣さを示すのには黒がベストで、そうでなかったら暗い色にすべきだ。

物事は同時並行で


 7番目は、連続的に物事を進めること。人生はいろんなことが同時進行している。起業家にとっても連続的に物事が進むわけではない。スタートアップは資金調達や人材採用や製品開発などを、ほぼ同時並行的にこなさなければならない。

 8番目が支配権の維持。自分たちが立ち上げた会社の経営について、支配権を持ち続けられるかというと、それは幻想だったりする。

 外部から資金を調達すると、お金に対する重大な責任が発生する。解決策は会社の価値を向上させること。それには、小さい市場や縮小する市場で高いシェアを目指すのではなく、自社の製品の市場自体を大きくすることが重要になる。

 9番目が特許申請。特許は会社を防御するのに役立つ。だが、特許を持つことばかりにこだわってはいけない。前を見据え、特許を使って仕事を確保し続けるなど、次のステップに進むことに気を配りたい。

多様性カギに


 10個目が気の合う、自分と同じような人間を採用すること。これは根本的な弱点となる。多様性が何より重要で、創業者と違う考えを持ち、能力を補うような人材を雇うべきだ。

 創業直後にアップルが成功したのは多様性があったためで、一人(ウォズニアック)がコンピューターを作り、もう一人(ジョブズ)がそれを販売した。2人が同じことをやっていたら、うまくいかなかっただろう。

 ボーナスとして、11番目もある。投資家と友達になることだ。彼らが投資してくれるのは起業家を信じているから。つまり、友達になるためではない。1ドルを20ドルに増やすために、目的を達成するための手段として人に投資する。

 そこで起業家がしなければならないのは、約束を果たすこと。期待以上の成果を上げれば、すべてがうまくいく。
                  
日刊工業新聞2017年5月1日電子版【デジタル編集部・特別企画】
藤元正
藤元正 Fujimoto Tadashi
 前出のスティーブ・ウォズニアック氏、およびガイ・カワサキ氏の講演は、3月24日に米サンフランシスコで開催された「第1回スタートアップワールドカップ(SWC)」決勝大会の関連イベントとして行われた。シリコンバレーを本拠地とするフェノックス・ベンチャーキャピタル(VC)主催のSWC決勝には、日本を含め世界12カ国・地域の予選を勝ち抜いた15社が参戦。自社の技術や事業内容を英語でプレゼンし、優秀さを競った。  その結果、日本代表で保育園向けにIoT(モノのインターネット)サービスを提供するユニファ(名古屋市中区)が優勝。投資資金として賞金の100万ドル(約1億1000万円)を獲得した。2位は3Dプリンター製のロボット義手を開発する英オープンバイオニクス、3位はアプリ経由で衣類などの洗濯サービスを提供するインドネシアのアリジャサだった。  優勝したユニファの土岐泰之社長は、4月の会見で、「国内外の投資家から投資の話が寄せられている」と明かした上で、今回の100万ドルの賞金や新規投資を元手に、保育サービスの海外展開に乗り出す計画を打ち出した。子どもの見守りAI(人工知能)といった新技術の開発も進めるという。  一方、主催者のフェノックスVCでは、18年の第2回SWCについて30カ国・地域に対象を拡大する意向。さらに日本予選は17年10月18日に東京・丸の内の東京国際フォーラムで、決勝大会は18年5月11日にサンフランシスコで開催の予定だ。  フェノックスVCのアニス・ウッザマンCEOは「言葉は壁ではない。アイデアこそがパワーであることを、ユニファの土岐社長が証明してくれた」と話し、日本のスタートアップのさらなる活躍に期待を示している。

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