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専門医が「糖尿病」治療で伝えたいこと

まずは早期発見・早期治療を
インスリンというホルモンをご存じですか? インスリンは魚類から脊椎動物全般に存在し、膵臓(すいぞう)で作られます。血中のブドウ糖を貯蔵用のグリコーゲンに変えて肝臓や筋肉に蓄えさせ、結果として血糖値を下げる働きを持ちます。ヒト(新人)は出現以来1万―2万年、飢えと戦い、餓死を避けるためにエネルギーを蓄える必要がありました。農耕文化が広がっても、誰もが好きなだけ食べられるようになったのは、豊かな日本でさえわずか40年前のことです。

 糖尿病はインスリンの作用不足で慢性の高血糖状態となる代謝性疾患群です。飽食の時代になり、常に高血糖にさらされるため、ヒトは糖尿病になりやすくなりました。

 日本人の糖尿病患者は戦後50倍に増加したといわれています。今まで血糖が高くなることなどほとんどなかったのに、急激な食生活の変化に民族の体質がついて行けずに引き起きた生活習慣病と考えられます。

 現在“糖尿病が強く疑われる人”は約950万人、“糖尿病の可能性を否定できない人”約1100万人とされていますが、そのうち治療を受けている割合は約65%にとどまります。

 つまり糖尿病であることに気付かない人や、気付いても放置する人が多いということです。症状は分かりにくくても、合併症は着実に進行し、血管や神経が侵され、全身のさまざまな臓器に障害を引き起こす恐ろしい病気です。

 健康な人は食事をして血糖値が上昇しても、膵臓からインスリンが分泌され2時間後には空腹時のレベルに戻ります。何らかの原因でインスリンの分泌能が低下した場合や、肝臓や筋肉でのインスリンに対する抵抗性が増大するとインスリンの作用不足をきたし、血糖値が上昇します。

 悪化すると口渇、多飲、多尿、体重減少、易疲労感、傷が治りにくいなどの症状が現れ、さらに進行すると昏睡(こんすい)をきたす場合もあります。

 3大合併症として糖尿病性網膜症(成人後の失明の主要原因)、糖尿病性神経障害(手足のしびれ、冷や汗、痛み、インポテンツ等)、糖尿病性腎症(人工透析が必要になる原因の1位)があります。それ以外にも脳梗塞、心筋梗塞の発症率増加と、水虫、歯周病、壊疽(えそ)などの原因になります。

 糖尿病の発病は複数の遺伝因子と、日々の過食(特に高脂質食)、運動不足、ストレス、肥満、アルコールなどの環境因子が主です。まさに生活習慣病です。糖尿病の初期は痛くも、かゆくもありませんが、放置すれば厄介な合併症が発症します。生活習慣を見直すことはもちろん、早期発見・早期治療が大切です。

日刊工業新聞2015年7月24日/31日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
予備軍でもある自分もしっかり頭に入れておきたい。

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