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「移民なしでアップルは存在しなかった」(ティム・クックCEO)

トランプ政権の移民制限で米IT企業の将来は?

「災いの計画ではない。将来と希望を与えるものである」


 自動車をはじめとした製造業に対しては、トランプ大統領のツイッターでの「指先介入」も表面上、効果を上げているように見えます。ただ、メキシコではなくコストの高い米国内で製品を作るのであれば、かなりの自動化は避けられないでしょうし、そうなると工場での雇用は思ったほど多くならない可能性もあります。さらにコストアップや輸入品にかける新たな関税のおかげで、米国民は高い製品を買わされる羽目にもなりかねません。

 トランプ大統領は11日の記者会見で、「神が創造した中で最も偉大な雇用を作る人間になる」と、米国民の3割近くを占めるプロテスタント福音派(エバンジェリカル)を意識した発言を行いました。

 とはいえ、聖書には「わたしは、あなたたちのために立てた計画をよく心に留めている、と主は言われる。それは平和の計画であって、災いの計画ではない。将来と希望を与えるものである」という言葉もあります。

 移民の制限が産業に及ぼす影響は、それこそ「神のみぞ知る」ですが、IT大手のトップが口を揃えて懸念するように、米国の強さの源である多様性を損なうことにつながりかねません。目先の部分的な雇用創出に目を奪われ、米国の製造業やハイテク産業が中長期的な競争力低下に見舞われる恐れは十分にあります。
(文=藤元正)
日刊工業新聞電子版2017年1月30日
藤元正
藤元正 Fujimoto Tadashi
だからこそ、製造業やサービス産業の振興、それにインフラ投資で雇用を生み出しつつ、できるだけ移民を受け入れて多様性を確保し、社会の分断を修復するマルチの折衷案で臨むというのが、労力はいるものの、現実的な対応かと思われます。 とはいえ、物事を分かりやすく単純化し、政策も取引(ディール)で進めるトランプ大統領の頭の中に、こうした希望を与える将来計画は残念ながら、存在していないようです。

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