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JICAメキシコ事務所長が語るトランプ後の自動車産業

文=篠山和良(しのやま・かずよし)氏
JICAメキシコ事務所長が語るトランプ後の自動車産業

現地中小企業の診断や改善指導を行うJICAシニアボランティア㊧

 メキシコは2015年の自動車生産台数が約340万台と、インドに次ぐ世界7位になった。米ビッグ3やトヨタ自動車日産自動車など外資系自動車関連企業の投資が相次ぎ、日系企業の進出ラッシュに沸いている。

JICAは80年代から支援してきた


 15年10月時点の日系進出企業957社の8割が自動車関連産業だ。こうした自動車産業を中心としたメキシコの産業基盤が構築できた背景には、民間企業の進出と政府開発援助(ODA)が効果的に連携してきたことが挙げられる。

 国際協力機構(JICA)は80年代から、メキシコの公立工業高校の先駆けとなった日墨産業技術教育センターのほか、工業高校教員養成センター、産業技術開発センターの設立を支援した。

 90年代後半からは自動車産業の発展と並行し、裾野産業の振興や要素技術移転に関わる調査を実施。この結果をもとに、メキシコの自動車産業全体を多角的に支援する各プロジェクトを行っている。

 例えば、産業人材の育成に向け工業高校に自動車製造に関する新規学科を設置、モノづくりの精神を重視した授業を行っている。また、公立の産業技術支援センターと連携し、現地中小企業向けに金属プレス加工の技術指導も実施している。

 このほか、メキシコに進出した日系企業と現地企業のマッチングを促進するべく、日本貿易振興機構(ジェトロ)と共同で現地企業を診断し、データベースを構築した。これらの活動には、日系企業からの要望や意見が多く寄せられており、同時に多くの協力を頂いた。

輸出条件に変化が生じる可能性


 15年に発効から10周年を迎えた日墨経済連携協定では、メキシコの裾野産業や中小企業の育成、職業訓練における二国間協力の必要性を言及している。同協定に基づいて毎年開かれる日墨間のビジネス環境整備委員会では、自動車産業分野への日本の協力についてメキシコ政府から感謝の言葉を頂いた。

 トランプ米次期大統領は北米自由貿易協定(NAFTA)の見直しを公約として掲げている。このため、メキシコから巨大な米国市場に無関税で完成車や自動車部品を輸出できる条件に変化が生じる可能性がある。

 一方、メキシコでは自動車産業以外の産業発展や輸出の多角化だけでなく、省エネ対策や再生可能エネルギーへの転換、都市問題など産官学連携で取り組むべき課題が山積している。当面は米国の動向を見守りつつ、目前の課題に取り組んでいきたい。
【略歴】
民間金融機関を経て、94年にJICA入団。ブラジル、東ティモール、ドミニカ共和国勤務を経て、15年6月より現職。50歳。
日刊工業新聞2017年1月20日
昆梓紗
昆梓紗 Kon Azusa デジタルメディア局DX編集部 記者
民間企業の進出とODAが連携し、長年かけて基盤を築いてきたメキシコでの自動車産業。先行きは不透明ですが、現場でともに汗を流してきた両国の方々の努力が損なわれないことを祈ります。

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