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独自動車連合、ウーバー、テンセント…白熱するノキアのデジタル地図事業買収合戦

ノキアは金額引き上げへじらしモード、調整にメルケル首相も登場?
独自動車連合、ウーバー、テンセント…白熱するノキアのデジタル地図事業買収合戦

HEREの地図を使ったカーナビ(同社のウェブサイトから)

 フィンランドの通信機器大手ノキアのデジタル地図・位置情報サービス事業「ヒア(HERE)」をめぐる買収合戦が熱を帯びている。ヒアは高精細のデジタル地図とその作成技術などを持ち、カーナビゲーションシステム向けに北米・欧州で約80%のシェアを誇る。
 
 とりわけ3次元のデジタル地図は自動運転車に不可欠の要素とみられることから、ダイムラー、BMW、アウディというドイツの高級車メーカーがコンソーシアムを組んで交渉中であるほか、携帯端末アプリを使って配車サービスを行う米ウーバーと中国検索エンジン最大手バイドゥの連合なども含め、少なくとも3グループが買収に名乗りを上げているとされる。その一方でノキアはメディアを通じ、交渉を急いで安売りをしない方針を表明、売り手・買い手双方の駆け引きが激しくなっている。

 ヒアの買収交渉に乗り出しているとされるのは、ドイツの企業連合に加え、ウーバーとバイドゥおよびプライベートエクイティ会社の連合、それに、中国のインターネットサービスのテンセントと中国の地図会社ナビインフォおよびスウェーデンの企業買収ファンドの3つ。

 売却報道が伝えられた4月半ばの段階では、アップルやフェイスブック、アマゾン、アリババなどの名前もメディアを賑わせていた。さらに、2014年に携帯端末事業を買収したマイクロソフト(MS)については、当初、携帯電話とともにノキアから売却話がもちかけられたものの、高額だったためMSが辞退したとの報道もある。

 今回、ドイツの3大自動車メーカーが企業連合を組んでまで買収交渉に乗り出した背景には、自動運転に重要な意味を持つ高精度な3Dデジタル地図作成技術を持つヒアが、グーグルやアップル、フェイスブックといった米国のハイテク企業の手に渡ることを警戒しているためだ。

 同連合がノキアに対し、すでに金額を提示したとの報道もあるが、金額が折り合わなかったためか、いまだ合意には至っていない。21日付の英ヨーロピアン・コミュニケーションズのインタビューで、ノキアのラジーブ・スーリCEOは、具体的な交渉相手の名前は口にしなかったものの、「もう少し時間をかけようと思う。もし正しい価値が得られないなら売却しないかもしれない」と話し、売却額のさらなる引き上げを狙った、じらし作戦に出ている。

 いずれにしても、地図部門売却はノキアにとって既定路線。4月15日にフランスの通信機器大手アルカテル・ルーセントとの買収合意を発表しており、買収額は156億ユーロと通信インフラ史上最高額。それと同時に、通信機器事業とはシナジーの薄いヒアの売却に動いた。

 業を煮やした自動車連合3社も、なりふり構わぬ行動に出ている。ウォールストリートジャーナルによれば、メルケル首相に接触して、ドイツ連合の買収提案をフィンランド政府に支持してもらえるよう働きかけて欲しいと要請したという。

 一方、ブルームバーグなどによれば、アウディの研究開発トップが株主総会で、アウディとしてはほかの自動車会社のコンソーシアムへの参加を認める考えであることを表明した。場合によっては高級自動車メーカーが大同団結してヒア買収に乗り出すことも想定される。

 ヒアはもともと、シカゴに本拠地を置く米国企業のナブテック(Navteq)がベース。ノキアが2008年に81億ドル(約9800億円)で買収した。これに対し、アナリストによれば、現在のヒアの企業価値は20-40億ユーロ(2700億-5600億円)とされている。
藤元正
藤元正 Fujimoto Tadashi
日本には関係無い話、と思っていたが、自動車メーカーはグローバルで事業活動を行っているため、大いに関係ありそう。ドイツの3社連合では、スマートフォンのアンドロイドOSのように最先端の地図を内蔵する自動運転車用OSをタダで配られたらそれこそ脅威になる、との焦りが先立っているようだ。日本の自動車会社の参戦もあるか。

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