揺れる「人文社会」の研究基盤

国立大学の予算縮小で発言力低下。文理横断で道は開けるか

 人文社会科学の研究基盤が揺れている。国立大学の運営予算縮小を受け、各大学では研究資金を獲得しにくい文系研究者の発言力が低下している。組織改革のやり玉にあげられ、大学では学長の決断によって文系ポストが減っていくという危機感がある。そこで国は文理融合や研究者と産業界の実務者らとの連携を増やそうとしてきた。ただ成果は芳しくない。文系研究者は教養研究の意義を訴えてきたが、その効果の検証などに再考の余地がある。

文科省の「文系軽視」に反発


 人文社会科学の研究のあり方は、大学改革とともに語られることが多い。文部科学省が2015年6月に出した通知では人文社会系の学部について「組織の廃止や社会的要請の高い分野への転換」を国立大学に求めた。これが「文系軽視」と研究者の反発を招き、文科省は「表現で誤解を招いた」と火消しに奔走した。

 騒動から1年以上が経つが、いまだに火種がくすぶっている。16年8月、日本学術会議第一部(人文社会科学)が開いたシンポジウムでは、「現政権に対してうるさい文系研究者を黙らせるための言論封じではないか」という意見に会場全体が賛同した。

 会場にいた文科省の担当官は「我々が日々頭を悩ましている現実と、研究者の文科省へのイメージがあまりにも乖離してしまった」と声を上げた。

 霞が関や永田町との対決姿勢が強まると、政策形成の上で建設的なコミュニケーションが難しくなる。それでも人文社会科学が団結を目指すのは、大学組織改革の削減対象にされているという危機感からだ。

資金獲得力=発言力


 国立大学への運営費交付金は削減が続き、産学連携や競争的資金など外部から予算を獲得できる研究者が重宝される傾向にある。大学病院を持つ医学系や産業界と連携しやすい工学系に比べ、人文社会科学系は不利な立場にある。地方大学など余裕のない組織ほど、資金獲得力の高い研究者の発言力が大きくなるのは必然だ。

 滋賀大学は17年4月にデータサイエンス学部を創設する。教育と経済の2学部制の文系大学が統計数理の新学部を立ち上げる。既存学部の定員を削って新学部の枠を捻出した。

 データサイエンス教育研究センター長の竹村彰通教授は「データ分析は現代の読み書き“そろばん”だ。国際競争に負けたくなければ習得すべきだ」と強調する。データサイエンス学部では社会課題とデータ分析の両方を学ぶ。だが文系教員からは「文理融合を掲げてはいるが、文系から理系へのポストの置き換えだ。理系重視の霞が関の意向の表れ」と恨み言が挙がる。
      


年間予算は約2億円


 国の人文社会科学のへ研究戦略が乏しいことも課題だ。文系専用の研究予算は日本学術振興会の「課題設定による先導的人文学・社会科学研究推進事業」だけで年間予算は約2億円。経済学や文学など個々の学問の戦略ではなく、人文社会系全体に新領域開拓と実務者連携、グローバル展開を促しているだけだ。

 自然科学は素粒子や宇宙など個々の研究分野で技術目標を掲げ、そのための実験設備や大型予算の獲得に動く。研究分野全体を底上げするための投資戦略を練り、他の研究分野と競争している。

 人文社会は戦略を練る単位としては大きすぎる。法学や経済学、哲学、文学など個々の学問が抱える課題や競争軸はさまざまで、共通の戦略を練るまでに至っていない。

 一方、大学予算の縮小は止まりそうにない。文科省は研究者自身に研究成果を比較させ、優先順位を決めさせようと研究者に成果の説明を求める。国が削減の順番を決めることは難しいためだ。ただ日本学術会議の前第一部長の小森田秋夫神奈川大学教授は「我々に身内切りはできない」という。第一部長の杉田敦法政大学教授は「序列化に走れば内紛が起きる」と明かす。

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日刊工業新聞2016年12月5日

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日刊工業新聞 記者

日刊工業新聞 記者
12月16日
この記事のファシリテーター

 ただパイは縮んでいるので、結託して外のポジションや資金をとりに行く算段をした方が良いと思います。国は人材流動性を高めようとしています。大企業や官公庁に比べて、大学は流動性が高いため、外から人材を受け入れる方が多いです。杉田先生は「大学と同様、民間や官公庁も流動性を上げなければ大学のポストがとられていくだけ。大学人が企業や省庁の中枢に入ることはほぼない」と指摘します。また「(外から来た人は大学で)研究せずに、企業や霞ケ関の代弁ばかりしている」という先生もいました。この副作用をきちんと示して、対等な人材流動性を整えることも社会系の研究者の仕事なのかもしれません。
(日刊工業新聞科学技術部・小寺貴之)

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