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次世代がん治療「BNCT」もうすぐ実用化

細胞をピンポイントに破壊、難治性がん対策に期待高まる
次世代がん治療「BNCT」もうすぐ実用化

治療前の準備室


研究炉で500例超える実績


 BNCTのパイオニアとして日本、そして世界で研究をけん引してきたのが京都大学原子炉実験所(大阪府熊取町)だ。

 現在、実用化に向けた治験は有効性を確認する第2相の段階にある。同実験所と南東北BNCT研究センターの2施設で並行して治験を実施しているが、安全性を確認する第1相の段階は同実験所が主導した。

 同実験所の鈴木実教授は「BNCTが対象としている疾患は難治性がん。国を挙げて対策に取り組んでおり、その中で難治性がん治療への可能性があるものとして注目されている」と背景を説明する。

 もともと、BNCTの研究は1950年代に米国で始まった。だが思うような成果が出せず、研究は頓挫。その研究が60年代になり日本に引き継がれた。

 同実験所は中性子を照射できる世界でも限られた施設で、研究用原子炉で500例を超える治療実績がある。世界でも突出しており、これが日本がBNCTの研究でリードするゆえんだ。

 鈴木教授は「この実験所には医療を手がける研究室があった。医師がいないと研究の方向性が実際の医療に向かわない。医師が常駐し、連綿と研究を続けていたことが“受け皿”となった」と指摘する。

 同実験所は全国の大学や研究機関の研究者などによる共同利用施設でもある。「BNCTの研究を束ねるハブ」(鈴木教授)として、BNCTに関する研究のシーズを醸成するネットワークを築いた。これが研究開発の厚みにつながっている。

 12年10月には世界で初めて、京大と住友重機械工業が加速器による中性子の照射システムを共同開発し、加速器による治験が始まった。ステラファーマ(大阪市中央区)がホウ素薬剤の開発で協力している。

 研究炉は承認や点検作業などがあり、医療用として利用するには現実的には難しい。鈴木教授は「医療機関では加速器によるBNCTが必要。加速器の開発が多くの患者にBNCT治療を受けてもらうための道を開いた」と訴える。
京大原子炉実験所で稼働する加速器

BNCTとは
 ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)はエネルギーの低い中性子とがん細胞に集積するホウ素化合物を利用し、がん細胞をピンポイントで破壊する最先端の放射線がん治療法だ。がん細胞のみに集積するホウ素薬剤(BPA)を事前投与し、中性子を照射してがん細胞を破壊する。
 中性子は飛距離が細胞一つ分(約10マイクロメートル、マイクロは100万分の1)と短く、細胞単位で選んで照射することが可能。正常細胞をほとんど傷つけず、高い線量を照射できるため、照射時間も約30分、1―2回と体への負担も少ないのが特徴。現在、脳腫瘍と頭頸部(けいぶ)がんの治験を進めている。
日刊工業新聞2016年11月30日
村上毅
村上毅 Murakami Tsuyoshi 編集局ニュースセンター デスク
一度は“捨てられた”技術を粘り強く研究し、臨床研究、治験に結びつけてきた「BNCT」にはドラマがある。がんの治療は世界的な課題であって、BNCTの研究に世界が乗り出している中、日本は臨床研究の実績で突出し、まさに実用化に一番近い位置にある。国内はもちろん、海外展開も夢ではない。

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