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ホンダジェットに吹き荒れる乱気流

生産計画遅れ、エンジン受注白紙に
【米ロサンゼルス=池田勝敏】2015年末に納入が始まったホンダの小型ビジネスジェット「ホンダジェット」。30年の開発期間を経て“離陸”した航空機事業だが、機体の生産ペースは計画より遅れ、航空機エンジン事業では受注を見込んでいた業者との合意が白紙になった。景気変動を受けやすい小型ビジネスジェット市場には米大統領選による経済の先行き不透明感も漂い、ホンダの航空機事業は正念場を迎えている。

機体の増産に一苦労


 「月産3機のペースで生産しているが安定しているわけでない」。ホンダジェットを生産する子会社ホンダエアクラフト(米ノースカロライナ州)の藤野道格社長はこう話す。当初の計画では月産3―4機のペースに乗っているはずだった。遅れの一因はサプライヤーが作る部品の信頼性だ。

 「(機体を組み立てた後に)信頼性を満たしていない部品があると、それを取り付け直してまた飛行テストをしないといけない。そういう繰り返しがある」(藤野社長)。機体は20万―30万点の部品で構成される。すべての部品の品質が安定しないと機体組み立ては軌道に乗せられない。

 ホンダエアクラフトの品質担当者がサプライヤーに赴き、部品の品質の基準や検査の仕方を変えて、不適合品を出荷する前に発見できるよう対策をとり始めた。機体組み立て作業の習熟度もネックになっており、技能向上のための訓練も強化している。早期に安定的に月産3機のペースに乗せ、16年度末に4機とし、17年度の終わりには5機とする計画だ。18年度から19年度にかけて年80機のフル生産を目指す。

 「大統領選などの大きなイベントがある時に様子見する顧客がいる」(藤野社長)という。藤野社長によればビジネスジェット市場は拡大予想に反して前年比8%減少している。中小企業の経営者を主な客層とする小型ビジネスジェットは景気の変動に敏感に反応する。

(エンジン部品を組み立てる技能者)

エンジンの外販を狙うが…


 ホンダジェット向けのエンジン「HF120」を生産するホンダエアロ(同州)の藁谷篤邦社長も「リーマン・ショック以降の市場の回復が思ったより遅れている」と指摘する。ホンダエアロのエンジン納入先は今のところホンダジェットのみ。事業を軌道に乗せるためにはホンダジェット以外の受注がカギとなる。2年前に機体改造を手がける米シエラ・インダストリーズとセスナの中古機にHF120を載せることで基本合意したが、シエラが買収され白紙になった。

 ホンダジェットとそれ以外の受注比率を半々にするのが目標だ。HF120は競合と比べ燃費性能が高く、オーバーホール(分解検査・修理)間隔が長い。こうした長所を売りにして受注獲得を急ぐ一方で、主要部品を内製化することにした。2100万ドル(約23億円)を投じて工場を増設し、17年春に稼働する。藁谷社長は「品質、コスト、納期の点でメリットがある」とし、受注獲得につなげたい考えだ。ホンダジェットと同クラスの機体メーカーと折衝を進めている。市場の回復を見据え機体とエンジンのそれぞれで事業体制を整える。

次ページに藤野・藁谷両社長のインタビュー
日刊工業新聞2016年11月16日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
鉄道大国・日本のビジネスジェット市場はごくわずか。保有機数ベースで100機もありません。しかし北米では1万3000機以上のビジネスジェットが保有されています。今後は世界中で市場拡大が期待されています。ホンダジェットも納入開始から間もなく1年。記事によると苦戦しているようですが、何とか上昇気流に乗ってほしい!

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