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「トロン」の坂村教授、ビル・ゲイツ氏らにITU150周年賞

国際電気通信連合が情報通信技術分野の6人を表彰
 「トロン」の坂村教授、ビル・ゲイツ氏らにITU150周年賞

同賞を受賞した(左上から右に)ゲイツ、カーン、ウィーガンド、(左下から右に)クリボシェフ、クーパー、坂村の各氏

 組み込み用リアルタイムOS「トロン」などの開発で知られる東京大学大学院の坂村健教授(YRPユビキタス・ネットワーキング研究所所長)、米マイクロソフトの共同創業者であるビル・ゲイツ氏ら6人が17日、「ITU150周年賞」を受賞した。電気通信と無線通信の国際機関である国際電気通信連合(ITU)が5月17日に創設150周年を迎えるのを記念した賞で、ITU本部のあるスイス・ジュネーブで開かれた記念式典で授賞式を行った。

 ITUは1865年5月17日にパリで設立された世界最古の国際機関。同賞は、現在までに情報通信技術(ICT)のイノベーション、促進、発展を通じて、世界中の人々の生活向上に多大な功績のあった政府機関、産業界、学術界などの個人を表彰するために設けられた。

 アジアから唯一受賞した坂村教授は、「TRON(The Realtime Operating system Nucleus)」と名付けたリアルタイム性に優れるオープンアーキテクチャーの計算機システムの技術体系の研究開発を行い、その基盤ソフトウエアであるOSをオープンかつフリー(無償)で世界に公開。自動車のエンジン制御から、携帯電話、デジタルカメラ、人工衛星などまで幅広い製品・機器の組み込み用OSとして幅広く普及している。

 さらには、コンピューターを身の回りのあらゆる「モノ」に埋め込み、それらをネットワークで結び、互いに協調動作させることで人間の生活をあらゆる面から支援するユビキタスコンピューティングや、最近話題となっているIoT(モノのインターネット)の考え方を1980年代から提唱。所長を務めるYRPユビキタス研究所がモノや位置の情報を識別するID番号「ucode(ユーコード)」を開発し、それをもとに2012年には「H.642」というITUの国際標準規格となるなど、ユビキタスコンピューティングおよびIoTの実用化に貢献したことも高く評価された。

 坂村教授は今回の受賞について、「永年の研究活動の成果を認めていただき、ITU創設150周年を記念した賞を賜ったことは大変名誉なことで、心から感謝いたします。また、永年にわたり、ご支援、ご協力をいただいた多くの方々に感謝申し上げます。今後もICTによる人々の生活環境向上に微力ながら貢献したいと思います」とコメントしている。

 その他の受賞者は、以下の通り。
 ・ビル・ゲイツ(米)
幼なじみのポール・アレン氏とともに1975年にマイクロソフトを創業。現在の同社での肩書きは技術担当アドバイザー。一方、2000年には妻のメリンダさんとともに世界最大の慈善基金団体であるビル&メリンダ・ゲイツ財団を立ち上げ、世界の貧困・感染症の問題解決や、米国内では貧困層への教育およびIT機会の提供に力を入れている。

 ・ロバート・カーン(米)
インターネットの根幹とも言えるTCP/IPプロトコルの共同発明者であり、DARPA(国防総省国防高等研究事業局)時代はインターネットプログラム立ち上げの責任者を務めた。

 ・トーマス・ウィーガンド(独)
独ベルリン工科大学教授で、フラウンホーファー・ハインリッヒ・ヘルツ研究所の共同所長。神戸大学への留学経験も。ビデオ符号化・送信方式を研究し、ISO/IECでの動画圧縮標準フォーマットであるMPEGビデオなどマルチメディア分野の国際標準化に貢献。

 ・マーク・クリボシェフ(ロ)
ITUの国際無線通信諮問委員会(CCIR)テレビ研究グループ分科会長を務め、デジタルテレビや高精細テレビ(HDTV)の国際標準化を推進。

 ・マーティン・クーパー(米)
発明家、起業家であり無線通信産業のパイオニア。1973年に世界初の携帯電話を発明。
藤元正
藤元正 Fujimoto Tadashi
坂村教授は2001年にも、アドバンテスト創業者が設立した武田賞をフリーソフトウエア活動のGNUプロジェクトを立ち上げたリチャード・ストールマン氏、Linuxを開発したリーナス・トーバルズ氏とともに受賞している。この時は3氏とも技術的な側面に加え、その成果をオープンかつフリーな形で公開し、IT社会の発展に貢献した点が評価された。知的財産権や(IP)の重要性や大学発ベンチャーが注目される昨今だが、社会を変えるにはオープンであるかどうかも時に決め手となる。 ともあれ、おめでとうございます!

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