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ボッシュ、「レベル3」自動運転車の実力

白線が認識しづらい大雨の悪天候にも関わらず正しく作動
ボッシュ、「レベル3」自動運転車の実力

自動運転のデモ

 独ボッシュの日本法人、ボッシュ(東京都渋谷区、ウド・ヴォルツ社長)は、自動運転車のテスト車両を日本で初公開した。テスト車両はドライバーの監視下で運転責任を車両システムが担う「レベル3」の自動走行機能を持たせており、ボッシュ製のセンサーやカメラなどで周辺環境を高度に認識しながら自動で車線変更できる。2021年には高速道路上で完全自動運転を実現するシステムの量産化を計画する。

 テスト車両はホンダのハイブリッド車(HV)「レジェンドハイブリッド」をベースに使い、自動運転の中核部品であるステレオカメラ、中・長距離ミリ波レーダーなどを搭載したもの。同日、女満別テクニカルセンター(北海道大空町)で行ったデモンストレーションでは、安全を確保した上で自動で車線を変更し、先行車両を追い越す機能を披露した。

 独ボッシュはドイツ、米国に続き、15年10月から日本の高速道路で公道実験を始めた。日本ではこれまでに1000キロメートル以上を走行した。日本の道路事情を把握し、自動運転の技術開発や完成車メーカーへの提案に生かすのが狙い。

 またボッシュグループ全体で、16年にドライバーを支援する各種センサーの売上高が10億ユーロに達する見通しを明らかにした。

日刊工業新聞2016年9月29日




完全自動運転に立ちはだかる壁


 完全自動運転の実現には二つの壁がある。運転を人工知能(AI)に任せていくと、人間はほとんど何もしなくてもいいのに、運転AIの監視は続けなくてはならない本末転倒の状況が生まれる。ドライバーは楽なのに気を抜けない「レベル3の壁」だ。もう一つは運転AIが人間よりも事故を起こしにくいことを示す「安全性証明の壁」だ。自家用車が起こす死亡事故は、走行距離1億キロメートル当たり0・38件。人間とAIの事故率で統計的な差を示すには100億キロメートル以上の試験走行が必要になる可能性がある。この巨大な壁に挑む技術開発を追った。
 

完全自動運転を唱えるのは新参者?


 「完全自動運転を唱えるのは新参者だけだ」―。古参の自動運転研究者らは口をそろえる。トヨタ自動車は完全自動運転の技術は開発するものの、無人で走る車を商品化する考えはない。自動車各社が目指すのは、あくまで人間が運転主体になる「レベル2」のシステムだ。AIが運転主体になる「レベル3」や完全自動運転の「レベル4」は課題が多い。
 
 自動運転の開発動機は死亡事故の低減だ。内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)は、交通事故死者数で年間2500人以下を目指す。2014年度の死者数は4113人で、4割低減が目標だ。すでに富士重工業の運転支援システム「アイサイト2」が追突人身事故を6割減らした。完全自動運転車には、運転支援システムで守られた人間以上の安全性が求められる。
 
 産業技術総合研究所の津川定之客員研究員(元名城大学教授)は「運転AIに優良ドライバーと同等の安全性を求めると、途方もない距離を走っても差を検出できないだろう」と指摘する。

 100億キロメートルの走行試験は一企業ではほぼ不可能な距離だ。車1台を20万キロメートル走らせるなら5万台が必要になる。だが運転AIの安全性を評価しないまま市街地を走らせれば事故後の訴訟リスクが高い。安全評価の研究者は「あらゆる状況での安全性は評価できない」と明かす。
 
 そこで、既存の車の自動化レベルを段階的に上げていくルートが現実路線として選ばれている。追突や交差点など事故の多い場面に絞って運転支援システムを開発し、限られた条件で安全性向上を示す。人の運転で安全に走っている場面での比較優位を証明しなくても済むため、現実的な評価コストで開発できる。
 
 このルートに立ちはだかるのが「レベル3」の壁だ。レベル3では運転をAIに任せるものの、緊急時などはAIの要請に応じて運転を代わる。問題となるのは緊急時に本当に交代できるかどうかだ。例えば雑誌を読んでいると衝突6秒前に運転交代を要請され、3秒で状況を把握して2秒でハンドルをきる。一連の動作をパニックを起こさずに完遂しなければならない。
 

「監視」は「運転」よりもつらい


 筑波大学の稲垣敏之副学長・教授は「ドライバーが運転以外の作業に集中してしまうと緊急時の交代はかなり難しい」と説明する。「他のことができずに『運転』が『監視』になってしまえば、運転するよりもつらい仕事になる」と指摘する。
 
 そこでヒューマン・マシン・インターフェース(HMI)の研究に注目が集まっている。産総研は自動車ヒューマンファクター研究センターを4月に設立。認知心理や生理機能などの研究者をそろえた。人間の行動と脳活動、生理計測技術でドライバーの人間特性を解析する。北崎智之センター長は「AIに助けられることで新たに生まれるリスクを評価して事前に対策する」という。自動化率や快適性とリスクの兼ね合いを探る。
 
 ドライバーの潜在意識を刺激して、注意力を保たせる研究もある。青山学院大学の野澤昭雄准教授は単調な作業を繰り返す際に、作業者が気付かない程度に作業周期を揺らがせると疲れにくくなることを発見した。野澤准教授は「周期が一定だと飽きてしまい、周期の揺らぎが認識できるほど大きいと疲れてしまう」と説明する。
 
 運転中にハンドルを握った手は自然と揺らぎ、呼吸リズムと同期する。ハンドルの揺らぎを測ることでドライバーの生理状態を推定できる。反対にハンドルを人工的に揺らがせることでドライバーの心理や生理状態を制御するという試みだ。

<次のページ、ヒューマン・マシン・インターフェースと安全性>

日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
自動運転車の試乗会当日は大雨が降る悪天候。雨だとカメラが白線を認識しづらくなるため、自動運転車が正しく作動するか不安視する声もあったが、全く問題なくスムーズに動いていた。ボッシュは自動運転に必要なコンポーネントはほとんど自社でそろえている。現在開発を進める高速道路上での自動運転システム「ハイウェイパイロット」の実現に向けては、センサーやソフトウエアに加え、セキュリティー技術の高度化を重要視している。 (日刊工業新聞第一産業部・下氏香菜子)

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