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本を閉じたまま中身がわかる技術、MITとジョージアテックが開発

とはいえ、今のところ読み取り可能なのは上から9枚めまでですが
本を閉じたまま中身がわかる技術、MITとジョージアテックが開発

開発した読み取り装置(COURTESY OF BARMAK HESHMAT, MIT Media Lab)

 本を閉じたまま中身がわかる? そんな超能力のような技を可能にする装置のプロトタイプを、米マサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボとジョージア工科大学(ジョージアテック)の研究者が共同で開発した。電磁波の一種で、マイクロ波と赤外線の間の波長を持つテラヘルツ波を利用している。9日発行のネイチャーコミュニケーションズに論文が掲載された。

 ただ、今のところ検出できるのは、表面に文字が1つずつ書かれた紙を9枚重ねた状態まで。どのページに何の文字が載っているかを認識するレベルに留まっている。それよりページが多くなると検出信号がノイズに隠れてしまうという。さらに多くのページを読み取るため、研究チームでは検出精度の向上や、テラヘルツ波の発信装置の出力アップに取り組むという。

 今回の研究では、MITメディアラボがそれぞれのページからイメージを検出する技術を開発し、ジョージアテック側で、歪んだり不完全だったりするイメージを正しい文字に変換するアルゴリズムを担当した。

 テラヘルツ波はこれまで、おもにセキュリティー用途向けに応用研究が進められてきた。X線や音波と同じように、物体の表面を透過する性質を持つ一方で、化学物質によってその周波数ごとの吸収率が異なることから、その反射波のプロファイルを分析することで、爆発物であるかないかといった検知に使える。

 今回はその原理を利用して、インクで印字された部分と、紙に何も書いてない部分とを識別しつつ、検出器への反射波の到達時間によって距離の違いを計算し、何ページ目の文字かを判別している。

 一方で、テラヘルツ波はページの間でも反射を繰り返し、検出器のセンサーにそうした偽信号が入るとノイズとなってしまう。そこでMITでは偽信号をふるいわけするフィルターを開発。まず検出器への到達時間で正しい信号を確定しておき、それ以外の到達時間や反射波のエネルギープロファイルから、偽信号を取り除く。

 本を開かなくても中身が透視できる技術は、長期間の経年劣化でもろくなり、本に触れること自体がはばかられる古い文献などの調査に役立てられるかもしれない。実際、MITの研究者によると、ニューヨークのメトロポリタン博物館がこの研究に大きな関心を寄せているという。
ニュースイッチオリジナル
藤元正
藤元正 Fujimoto Tadashi
実はジョージアテックで開発した文字推定技術は、「キャプチャ」破りに応用できる可能性があるといいます。キャプチャとは、ウェブサイトを見に来ているのがロボットではなく人間であることを確認するための手法。多くのウェブサイトに採用され、皆さんも経験したことがあると思いますが、かすれたり斜めになったりした数字やアルファベットを人間が見て正しく入力し直し、閲覧の認証を受けることができる。セキュリティー技術とそれを破る技術も分進秒歩で進んでいるようです。

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