脳梗塞は「生活習慣病」ではなく「性格習慣病」!?

<情報工場 「読学」のススメ#12>41歳で“脳が壊れた”ルポライターが「異世界の経験」から学んだこと


脳梗塞は「生活習慣病」ではなく「性格習慣病」!?


 脳梗塞は、いわゆる生活習慣病の一つであり、不規則な生活、飲酒・喫煙、ストレスなどが発症の原因となるとされている。鈴木さんの場合、フリーランスであったものの、自己を律し、比較的節制した生活を送っていたようだ。県の無料健康相談で高血圧が指摘された後は、その時に指導された減塩食生活を続けてきた。

 ではなぜ発症したのだろう? 鈴木さんはそれまでの自分を振り返り、これは「生活習慣病」ではなく「性格習慣病」ではないかと思い至る。「生活」ではなく、鈴木さん自身の「性格」に問題があったということだ。

 41歳という若さで脳梗塞に倒れた理由を、鈴木さんは「自業自得」と結論づける。そして、自らの性格や行動傾向を「背負い込み体質」「妥協下手」「マイルール狂」「ワーカホリック」「吝嗇(ケチ)」「善意の押し付け」と列記。どれも「自己中心的」という言葉に集約できそうな短所ばかりだ。

 とくに大きかったのが、妻の千春さんとの関係。家事全般に「マイルール」を決め、テキパキと自分でやってしまうのは、夫の大介さんの方だった。注意散漫な傾向がある千春さんがグズグズしていると、家事を取り上げ、自分でやってしまう。そしてイライラする。たくさんの仕事を背負い込んだ上に、(自分が奥さんから取り上げた)家事の負担が重なり、余計にストレスを溜めていく。高血圧の原因ともなり、しまいには脳梗塞発症に至った。

 鈴木さんは、先に列記した自らの性格のうち、最大の欠点が「善意の押し付け」ではないかという。「妻のため」と思ってやってきたことが、実は「相手が望んでいること」ではなく、「僕がそうしたほうが良いと思っていること」にすぎなかった。一方の千春さんは、相手が「してほしいと思っていること」を察して行動するタイプだ。夫婦仲がとくに悪かったわけではないが、(大介さんが原因の)二人の歪んだ関係が、彼自身の健康を損ねていったということだ。

 脳科学の世界的権威であるマイケル・S・ガザニガは、著書『〈わたし〉はどこにあるのか』(紀伊国屋書店)の中で、他者の脳との相互作用の重要性を強調している。研究者は脳の機能を単体で見がちだが、実際には脳と脳が交流することで、単体にはない機能が発揮できる。逆に、もし他者の脳と一切触れ合うことがないとすると、脳内のインタープリター(自己認識や意思を生むプロセス)が暴走し、「独りよがり」の意思決定しかできなくなる。他者との関係は、脳の機能にも重要な影響を及ぼすということだろう。

 鈴木さんは、その後大きく回復したものの、緊急入院から7カ月たった今でも、注意欠陥、パニック、話しづらさといった障害が残っているそうだ。だが、それまでの間に、自らの性格、そして妻の千春さんや実親との関係を反省し、改善を図ってきた。そして「人の縁」の大切さを、身にしみて感じるようになった。

 もちろん、鈴木さんの言う「性格習慣病」が脳梗塞の原因として医学的に証明されたわけではない。また、彼が列記した性格や行動傾向があるからといって脳梗塞を発症するわけでもない。だが、心身の健康を保つ上で、生活習慣と一緒に自分の「人との接し方」「関係のつくり方」を振り返ってみることは決してマイナスにはならないはずだ。
(文=情報工場「SERENDIP」編集部)

『脳が壊れた』
鈴木 大介 著 新潮社(新潮新書)
234p 821円(税込)


ニュースイッチオリジナル

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冨岡 桂子

冨岡 桂子
08月22日
この記事のファシリテーター

連日残業続きで疲労困憊しているうえに、プライベートでも人間関係がうまくいかないなど、ストレスのたまる生活を送っている人もいることでしょう。そんな、心身ともに弱っている時に、脳梗塞は突然襲いかかります。環境のせいばかりにせずに、常に自分自身を振り返る習慣をつけることが病気予防の秘訣の一つなのかもしれません。

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