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【続報】ゲノム編集使ったがん免疫療法で初の臨床研究へ、米ペン大が申請

「ナップスター」のショーン・パーカーのファンドが研究資金提供
【続報】ゲノム編集使ったがん免疫療法で初の臨床研究へ、米ペン大が申請

CRISPRのイメージ(Sputnik Animation, the Broad Institute of MIT and Harvard, Justin Knight and pond5)

 最先端のゲノム編集技術であるCRISPR/Cas9(クリスパーキャスナイン)を使い、米ペンシルベニア大学ががん治療の臨床試験に向けた適用申請をおこなっていることがわかった。来週開かれる「組み換えDNA諮問委員会(RAC)」 での議題の一つとして、米国立衛生研究所(NIH)が公表したもので、MITテクノロジーレビューが伝えた。提案されているのはがんの免疫治療の一種。自分の免疫細胞の特定の遺伝子をCRISPRで働かないようにし、がんを攻撃しやすいようにするという。

 これまでにもHIVや白血病に対し、遺伝子を組み換えた免疫細胞による治療が試みられたことがあったが、CRISPRはそれらよりはるかに容易かつ正確に、さらに低コストで遺伝子操作が行えると考えられている。

 ペン大はすでに、今回提案した遺伝子組み換えでの免疫治療法の基本技術を確立済み。骨髄腫やメラノーマ(黒色腫)、肉腫といったがんに対するもので、体外に取り出した免疫T細胞の表面にある受容体のPD-1を遺伝子組み換えで除去し、体内に戻す。こうすることで、リンパ球の活性化を抑制するPD-1を利用して、がん細胞が免疫機構から逃れるのを防ぐ仕組みだ。

 21-22日にNIHで開かれるRACで審査されることになるが、組み換えT細胞が患者自身の細胞を攻撃するようなことのないよう、副作用なども含め厳密にレビューされることになるという。NIHのキャリー・ウォリネッツ副所長も公式ブログで「ゲノム編集の応用は人類の健康にとって非常に大きなポテンシャルを持つ半面、懸念がないわけではない」としている。

 これ以外にも、CRISPRの発見者の一人、フェン・チャン博士が創設メンバーとなった米エディタス・メディシン(マサチューセッツ州)が、従来の遺伝子治療では難しい希少な網膜疾患などを対象に、CRISPRを使って2017年の臨床試験開始を表明している。だが、ペン大のほうがそれより先になりそうだという。

 ちなみに、全く新しい機序を持つ抗悪性腫瘍薬として注目される小野薬品工業の「オプジーボ」(一般名ニボルマブ)もPD-1に着目したもの。PD-1受容体を阻害することで、がん細胞を異物として認識・除去する免疫反応を高める作用がある。

【続報】
 ペン大のチームが提案していたゲノム編集によるがん免疫療法の申請が、21日に開かれたRACの諮問委員会で承認された。今後、臨床研究を行う医療機関の倫理委員会の承認と、米食品医薬品局(FDA)の承認が受けられれば世界初の臨床研究に入る。早ければ年末にも開始されるという。

 最初の臨床研究はごく小規模のもので、ゲノム編集したT細胞の安全性を確認する。計18人のさまざまながんを持った被験者のT細胞を体外に取り出し、CRISPRで3種類のゲノム編集を施す。まずがん細胞を検出するたんぱく質の遺伝子を挿入し、T細胞ががん細胞を標的とするようにする。2つ目はもともとT細胞に存在し、このプロセスを妨げるたんぱく質を除去。3つめはがん細胞がT細胞の働きを邪魔しないよう、T細胞が免疫細胞だと示すたんぱく質の遺伝子を除去する。こうした編集を加え、がんに対する免疫機能を強化したT細胞を患者の体内に戻す。

 さらに臨床研究の資金については、音楽ファイル共有サービス「ナップスター」の共同創業者として知られ、フェイスブックの初代CEOを務めたショーン・パーカーが4月に立ち上げた2億5000万ドルのがん免疫療法ファンドから、提供を受けるという。

ニュースイッチオリジナル
藤元正
藤元正 Fujimoto Tadashi
CRISPRが登場して3年ほどになるが、関連の研究論文が次々と発表され、かなりのスピードで応用研究も進む。iPS細胞による再生医療も先行き有望だが、ゲノム編集の医療応用で日本は後れを取ってしまうのだろうか。

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