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超難解な計算を瞬時にこなす「未来のコンピューター」、IBMが実現に一歩!

グーグルも研究体制強化。量子電算機の開発競争が熾烈に
超難解な計算を瞬時にこなす「未来のコンピューター」、IBMが実現に一歩!

IBMが製作した格子状の量子コンピューティング回路(IBMのウェブサイトから)

 複雑な暗号の解読や高度な科学技術計算を瞬時にこなす未来のコンピューターとして期待される「量子コンピューター」。米IBMの研究部門であるIBMリサーチが、その実現に一歩近づく研究成果を4月29日付のオンライン科学誌ネイチャーコミュニケーションズに発表した。計算中に起こりうる2種類の量子力学的なエラーのうち、これまで1種類しか検出できなかったのを、2種類とも同時に検出できることを世界で初めて実証したのだという。ただ、エラー修正の手法はまだこれから。一方で米グーグルは、初の量子エラー修正の仕組みを3月4日付のネイチャー誌で報告したほか、米マイクロソフトもこの分野の研究に力を入れている。未来技術である量子コンピューターをめぐり、IT大手によるつばぜり合いが激しくなってきた。

 量子コンピューターとは量子力学での「重ね合わせ」という特性にもとづき、1と0の情報量が重ね合わさった状態を利用して並列処理を行い、超高速に計算を実行する手法。1か0かといった通常の情報量の単位「ビット」の代わりに、1と0に加え1と0の量子力学的な重ね合わせ状態を表す「量子ビット(キュービット)」という単位が使われる。今回の研究成果は4量子ビットについてのものだが、理論的にはn量子ビットならばn個の状態を同時に処理できるため、超高速に計算が行えるのだという。IBMの発表資料によれば、50量子ビットの量子コンピューターが完成すれば、スーパーコンピューターの世界ランキングである「トップ500」の世界最速スパコンが束になってかかっても、太刀打ちできない計算処理能力を持つことができるとしている。

 実用化の上では極めて重要となるエラー検出の手法を確立したのが今回の成果。電磁気や熱、材料の欠陥といった要因で量子コンピューターにもエラーが起こりうるが、実用化にあたってはそうしたエラーがなるべく起きないようにする機構を作るのはもちろん、エラーを検出し、修正する仕組みも必要になる。ただし、これまで実現できたのは、1が0に、あるいは逆に0が1になってしまう「ビットフリップ」というエラーの検出だけ。1と0の重ね合わせ状態で、それらの位相関係にエラーが起こる「位相フリップ」の同時検出はできなかった。

 IBMの研究者は、二つの超伝導体の間に絶縁体をはさんだ「ジョセフソン接合」で量子力学回路を作り、そうしてできた量子ビットの素子を、ほぼ1cm角の基板に四つ載せたチップを製作。絶対零度(マイナス273.15 度C)に近い極低温下で実証実験を行った。これまでの研究が量子ビットの回路素子を直線配列にするアプローチをとっていたのに対し、2x2の格子状に並べたのがポイントだ。

 こうすることで、隣り合うペアの量子ビットをそれぞれ重ね合わせ状態にし、片方のペアはメーンの任務である計算のデータを扱う「データ量子ビット」に、そしてもう一つのペアはエラーを観測する「測定量子ビット」に割り当てる。その上で、1組の測定役のうちの1個が近接するデータ量子ビットのビットフリップを、もう1個が位相フリップを測定する仕組みにした。

 ここで、測定されるデータ量子ビットの二つは(測定量子ビットと同じく)「量子もつれ」という状態にあるため、どちらのデータ量子ビットを観測しても状態は同じという原理を利用している。これで、1個の量子ビットにおけるビットフリップと位相フリップの2種類のエラーを同時観測できるようになった。IBMリサーチの研究者は「通常の半導体技術を使って回路素子を製造できるうえ、量子ビットを増やす場合も、今回の成果を容易にスケールアップできる」と話す。実際、この手法にもとづき、この研究チームでは2x4の8量子ビットの回路で実験を始めているという。

 方やグーグル。量子コンピューターの研究に弾みをつけるため、2014年秋にはカリフォルニア大学サンタバーバラ校の研究チームを迎い入れている。さっそく今年3月のネイチャー誌には、直線配列の9量子ビットの量子回路を使い、量子コンピューティングで世界初となる量子エラー修正の成果を報告した。ただ、検出できるエラーは1種類にとどまっている。このため、グーグル側も2種類の量子エラーを同時に扱える格子配列でのアプローチに意欲を示しているという。
ニュースイッチオリジナル
藤元正
藤元正 Fujimoto Tadashi
世界で初めて商用量子コンピューターを開発したというのがカナダのD-Wave Systems。グーグルも人工知能の研究開発用に1台導入しているが、こちらは「量子アニーリング」という原理で高速処理を実現しているため、研究者の間では「量子コンピューターと呼べないのでは」という疑問の声もある。記事にあるように、超高速処理を実現する「量子ゲート」方式の量子コンピューター実現には時間がかかりそうだ。

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