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息で肺がん早期発見へ、英国で小型・低コスト分析装置の臨床試験

EUプロジェクトでは、スマホ接続のセンサー機器を開発
息で肺がん早期発見へ、英国で小型・低コスト分析装置の臨床試験

被験者の呼気を採取する様子(アウルストーンのウェブサイトから)

 息に含まれる微量な化学物質を分析することで早期の肺がんを検知する呼気分析装置が、今年から英国で第2相の臨床試験に入っている。ケンブリッジ大学工学部出身者らが創業したベンチャーの英アウルストーン・メディカル(Owlstone Medical)の「ルーシッド(LuCID)」で、これまでの分析装置に比べ小型で低コスト、操作が容易なのが特徴。ロイターによれば、2017年に一般医による診療所での利用開始を計画している。

 肺がんの場合、がんが進行したステージ4の患者の生存率は5%なのに対し、初期段階のステージ1では75%あり、いかに早期に発見し、治療につなげるかが重要になっている。これまでにもがん細胞が作り出す揮発性有機化合物(VOCs)を患者の呼気から検出して診断する装置はあったが、高価なうえ、分析に時間がかかり操作が複雑だったという。

 「肺がん指標検出」の頭文字から名前を付けたLuCIDでは、呼気に低濃度で含まれる数百種類の化学物質のうち、12種類のVOCsを肺がんのバイオマーカーとして採用。被験者の呼気に含まれるそれぞれのVOCの量を計測し、グラフ化できる。

 分析装置本体も卓上型で持ち運びできるまで小型化した。シャツのボタンほどの大きさのイオンモビリティー分析計(FAIMS)という化学センサーチップを開発したことによるもので、これまでのガスクロマトフラフィー・質量分析法(GC-MS)に比べると、コストで100分の1、大きさは1000分の1にできたという。医師による呼気の収集は数分で済み、分析作業は同社のラボで行う。

 英国では今年だけで44,000人が肺がんと診断され、35,000人以上が死亡すると見込まれている。肺がんだけで、英国の国民健康保険である国民保健サービス(NHS)の負担は25億ポンド(約4000億円)にも上る見通しだ。

 LuCIDの臨床試験は、英国内の17の医療機関で最大3000人を対象に実施する。同社としては、肺がんを早期に発見することで2020年までに10,000人の命を救い、2億4500万ポンドのNHS健康保険支出額削減をビジョンとして掲げている。

 呼気からがんを検出する研究はイスラエルや日本を含め、各国で行われている。うち欧州連合(EU)の「ホライズン2020」プログラムでは、スマートフォンのコネクタージャックに化学センサー付きの小型デバイスを接続し、そこに息を吹きかけることでがんなどを診断するスニッフフォン(SniffPhone)の研究開発プロジェクトが進行中。この分野の権威であるテクニオン・イスラエル工科大学のホッサム・ハイク(Hossam Haick)教授をリーダーに、フィンランドのVTT技術研究センターやドイツのシーメンスなどがコンソーシアムに加わっている。
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藤元正
藤元正 Fujimoto Tadashi
コストの話ではありませんが、Owlstoneの説明では、FAIMSセンサーにより、「複数種類のガスを1秒以内に同時検知し、検知レベルは1ppbを下回る」「ハードウエアはそのままで、ソフトの調整で新しいガスにも対応する」(http://www.owlstonenanotech.com/)とあり、対応するガスの種類の多さと低濃度での検出性能を強調しています。比較のため、昨年10月に産業技術総合研究所・無機機能材料研究部門が、呼気で肺がんを検知する装置の技術発表を行っていますが、こちらでは「数ppb(ppbは10億分の1)レベルの疾患マーカー物質を検出できる」となっています。(http://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2015/pr20151027/pr20151027.html)。

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