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トヨタのFCV「ミライ」発売から10年超…愛知で広がる「水素の輪」

トヨタのFCV「ミライ」発売から10年超…愛知で広がる「水素の輪」

日特陶の水素分野の実証拠点「SUISO no MORI hub」(愛知県小牧市)

実証活発化/新興支援/公設試に工業炉

愛知県を舞台に水素社会の実現に向けた官民の取り組みが多様化している。水素は燃やしても二酸化炭素(CO2)を排出しない次世代燃料として注目されるが普及には時間がかかっている。水素の普及には需要の創出やインフラの整備、水素サプライチェーン(供給網)の構築など多面的な取り組みが必要で、多様なプレーヤーの参加が求められる。トヨタ自動車が初代燃料電池車(FCV)「MIRAI(ミライ)」を2014年に発売してから10年超。着実に水素の輪は広がっている。(名古屋・狐塚真子、同・鈴木俊彦、同・伊藤研二)

6月初旬、愛知県常滑市の愛知県国際展示場で開かれた産業展示会「AXIA EXPO 2025」。2回目の同展示会のテーマはカーボンニュートラル(CN、温室効果ガス排出量実質ゼロ)。大村秀章愛知県知事は「日本一の産業集積地として脱炭素社会実現に積極的に取り組む愛知において開催されることは意義深い」と強調した。会場では水素関連の多様な技術・製品が見られた。

FCV関連の出品は多かったがトヨタや部品メーカーだけではない。プレス機メーカーの山田ドビー(愛知県一宮市)はFCセパレーター専用プレス機を手がける。実はMIRAIのセパレーターは全量、同社のプレス機で成形されているという。さらに、その成形用の金型も愛知県豊田市にあるニシムラがつくっている。

水素供給のためのインフラづくり、水素利用の拡大に向けた技術開発など商用化に向けた実証を加速しているのは川崎重工業。愛知を中心とする中部圏を見据えたアプローチの一つとして、モビリティー向け水素関連ソリューションの展開も想定する。水素ステーション向けの各種設備・機器の開発、実証を進めており、FCVの普及に備えている。

日本特殊陶業が展開する、水素・炭素循環に挑むスタートアップへの投資・支援の取り組み「水素の森」プロジェクトは、まさに水素の輪を広げようとするもの。同社小牧工場(愛知県小牧市)内に設けた実証実験の場「SUISO no MORI hub」では、入居するスタートアップ各社が技術開発に注力している。

コーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)ファンドを通じた投資活動もプロジェクトの一環として推進しており、3社への投資実績がある。日特陶はスタートアップの成長支援を通じて水素の普及拡大に貢献するとともに、企業との連携で得られたアイデアを自社事業の高度化にもつなげたい考えだ。

一方、愛知県も4月に専門部署「水素社会実装推進課」を設置し、取り組みを活発化させている。常滑窯業試験場(愛知県常滑市)に全国の公設試験場として初めて、水素工業炉を設置した。試験環境の整備だけでなく、試験手数料のうち、高価な水素の燃料代は県が5年間補助することで、施設利用のハードルを下げた。従来、化石燃料の利用が多いとされる金属・セラミックス分野の企業の脱炭素化を後押しする。

トヨタが初代MIRAIを発売した14年。加藤光久副社長(当時)は水素社会の実現に向け「これから始まる長い長い道のり」と表現した。現時点で何合目かは不明だが着実に水素の“仲間”は増え、歩みが進んでいる。


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日刊工業新聞 2025年06月13日

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