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アップルのSiri開発者ら、新会社で新しい音声アシスタント実用化へ

自然な会話でピザ宅配やチケット予約など、幅広いサービス提供
アップルのSiri開発者ら、新会社で新しい音声アシスタント実用化へ

ビブのウェブサイト

 アップルのモバイル用音声アシスタント「Siri(シリ)」の元々の開発者らがアップルを辞めて新会社を作り、Siriを超える新しいパーソナルアシスタントを開発中だとワシントン・ポスト紙が報じた。「Viv(ビブ)」と名付けられたこのソフトは、いわゆる「チャットボット」というおしゃべり用の人工知能(AI)とは一線を画し、Siriの開発過程で当初狙っていた機能に的を絞っている。外部のさまざまなオンライン事業者とオープンな形で連携し、普通の会話のようにスマートフォンに話しかけるだけで、幅広い分野の商品の注文やサービスの提供などを可能にしていくという。

 「会社の近くにあるピザシカゴのピザを配達してほしい」とビブのエンジニアの1人がスマホに話しかけると、甲高い声で「トッピングはいかがですか」との答えが。次にエンジニアたちは、「ペパローニ」だとか「ハーフチーズ」だとか、口々にトッピングを追加してみてはやめたり、サイズもMからLに変更したり、いろいろ試したところ、約40分後に注文したピザが配達されたという。

 もちろん電話もしなければ、検索も文字入力もクリックも、さらにはピザショプのアプリのダウンロードもまったくなし。スマホと会話するだけでピザを注文することができた。ただそれだけのことだが、実はこれ、iPhoneのSiriにはできない芸当でもある。Siriに「コンサートのチケットを予約して」と頼んでも、チケット予約のウェブサイトが表示されるだけ。音声アシスタントでのレストランの予約もOpenTableのアプリがインストールしてなければ実行できない。ワシントン・ポスト紙によれば、5月9日にVIVの初の公開デモが行われる予定だ。

 Siriはもともと、DARPA(米国防総省国防高等研究事業局)の次世代音声アシスタントプロジェクトとして非営利研究機関のSRIインターナショナルで開発が進められた。そのプロジェクトに関わったダグ・キトラウスとアダム・チェイヤーらがSRIからスピンアウトする形で共同で立ち上げたのが、モバイル用アプリのSiriを提供するシリ社で、2010年4月にアップルに買収された。

 その後、2011年10月4日にiPhone4Sが発表され、同機のiOSに組み込まれた音声アシスタントのSiriが本格的な音声AIとして大きな話題を呼ぶ。音声による指示で、アラームをセットしたりリストに載っている人物に電話をかけたりメールをしたり、といったことができるうえ、時にはウィットに富んだ、少し生意気な答えが返ってきたりして、それが人間ぽいと騒がれたものだ。

 だが、それから5年近くが経ち、その限界もあらわになってきた。外部アプリとの連携が乏しいのもそうだが、アマゾンが米国で昨年発売したスピーカー型端末「エコー」に搭載された音声アシスタントの「Alexa(アレクサ)」のほうが、音声認識性能ではSiriを上回るとも言われる。Alexaはユーザーの求めに応じて、お天気やニュースを知らせたり、好みの音楽をかけたりするほか、配車サービスのウーバーで車を呼んだりもできる。

 音声アシスタントについては、アップル、グーグル、マイクロシフト、フェイスブック、アマゾンという世界のIT大手5社がいずれもが開発や投資に力を入れていて、その事実が今後の市場でのこの技術の何よりの重要性を物語っている。しかも、より求められているのは、単におしゃべりするだけではなく、人間と自然な会話をしながら、話の中身に応じて適切なアクションを実行するインテリジェントな機能だ。

 実はアップルによる買収前に独立したiOSアプリとして提供されていた頃のSiriは、YelpやOpenTableはじめ42のウェブサービスと提携し、チケットを買ったり、レストランを予約したり、タクシーを呼んだりできたのだという。だが、買収後はそれらの協力関係やアンドロイド版のリリースが白紙にされ、どちらかというとアップルの理念に沿ったクローズドなサービスとなった。最近ではOpenTableに見られるように、アップルも他社のサービスも少しずつ取り入れているが、必ずしもオープンではない。

 それに対し、創業4年のスタートアップで情報をあまり外部に公開しないステルスモードにありながらも、ビブは音声のポータルサイトとして完全なオープン戦略を表明。すでにフードデリバリーやタクシーの配車、花の注文、ホームオートメーション、飛行機のチケット予約、医者探しなどをオンラインで提供する約50社と協力関係を結び、ピザの注文で見られたのと同じようなVivでの検証作業を実施中という。ほかにも自動車やテレビのメーカー、メディア企業、スマート冷蔵庫のメーカーなどと協議を進めていて、一連の会話の中でユーザーからいろいろな注文や指示が出てきても、アプリを切り替えずに一貫してサービスを提供していくプラットフォームを作り上げる考えのようだ。

 一方で、ワシントン・ポストの情報源によれば、グーグルとフェイスブックの2社がビブに買収を持ちかけたことがあるという。中でも、フェイスブックのザッカーバーグCEOはベンチャーキャピタルのアイコニック・キャピタルを通じてビブに間接的に投資しているとのことだ。
ニュースイッチオリジナル
藤元正
藤元正 Fujimoto Tadashi
Siri登場から5年、単なるおしゃべりAIでは面白みはあっても金儲けにつながらない、ということがようやく分かってきたようです。その意味で、「エコー」という、いわば買い物の「蛇口」を(有料ですが)ユーザーに配るアマゾンの戦略は非常に賢い。しかもスマホではないので、アップルもアンドロイドも関係なし。ビブのSiri外しもまた、アップルというプラットフォーマーの影響力排除につながるかもしれません。

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