安川電機と溶接新工法…モノづくり飛躍遂げる、トヨタのモータースポーツ現場の全容
モータースポーツの現場でトヨタ自動車のモノづくりが飛躍を遂げている。2021年から取り組む水素エンジン車の各種機能はもちろん、溶接で新工法を考案・実践するなど伝統的な技術も進化させている。過酷な環境への適応と十分な安全性の確保を両立する必要があるモータースポーツの課題を解決することで、これまでにない改善が見込める。「もっといいクルマ」を実現するために「もっといいモノづくり」を追い求める。(名古屋・川口拓洋)
モータースポーツにおいてドライバーの安全を守りながら、車両の剛性を高める機能を持つ部品「ロールケージ」。ジャングルジムのような見た目で、複数のパイプを組み合わせ、ボディーと車両内部をつなぐ。
このロールケージを搭載するには、熟練した溶接工が熱による歪みを考慮しながら1本1本手作業で溶接・組み合わせるため、1台当たり約2週間という非常に長いリードタイムが必要になる。ラリーやレースなどのモータースポーツは約1カ月に1回の頻度で開催される。そのためロールケージを作り直さなければならない場合、これに2週間を割かれるため「困った事態」に陥ってしまう。
23年、トヨタがラリーの運営拠点を置くフィンランドでロールケージの課題を目の当たりにした豊田章男会長は「トヨタ生産方式(TPS)でできることはないか」と提案。これを受け、トヨタのスポーツカーを手がけるガズーレーシングカンパニーは、ロールケージの課題を打破するために動き出した。
ロボット溶接に定評がある安川電機と連携し、ロールケージに関するアーク溶接新技術「連続凝固溶接(SFA)」を開発した。同技術の核はロボットが人より、ゆっくり丁寧に溶接するという発想の転換。これにより金属は溶融と凝固を繰り返す。溶接の歪みを抑え、熟練工にも劣らない品質も維持し、作業時間を1台当たり2週間から3日に短縮することが可能になった。
SFAではロボットがゆっくり溶融と凝固を繰り返すアーク溶接の作業をすることで、金属がより深く溶け込むほか、上向きや下向きなど溶接方向を選ばない。従来は溶接の深さで10ミリ―15ミリメートル程度が限界だったが、30ミリメートルの突き出し量まで可能になるなど複数のメリットがある。
またSFAによる溶接と従来の溶接方法を比較すると、引っ張り強度は同等だが、人よりも最適に溶接できるため余分な溶接がなく、重さはSFAの方が25%軽くなる。ガズーレーシングカンパニーの川喜田篤史主査は「車両全体でロールケージの溶接部分は数メートルにも及ぶ。SFAにより500―800グラム程度軽くなる。これはすごいこと」と説明する。
さらにSFAでは溶接時に生じる熱による歪みを最小限に抑えられるため正寸を実現する。従来の車両本体にパイプを1本ずつ溶接するのではなく、複数のパイプを事前に溶接し、車両に組み付ける「サブアセンブリー」も可能になった。
トヨタは今後、SFAを量産車でも適用できないか模索する。まずはトヨタのスポーツカー「GR」の車両などへの使用を見込む。
同社は「モータースポーツを起点としたもっといいクルマづくり」を掲げ、レースやラリーで鍛え、磨き、競争力のある車を開発している。耐久レースにおける、水素を燃料とする水素エンジン車の開発はその象徴的な存在だ。
次々と新たな技術や部品を生み出す一方で「新しい技術に取り組むことも大事だが、続ける方が大事。継続しないと夢は実現できない」と語るのは豊田会長。新しい技術に挑むと必ず失敗もついてくる。それに負けず何度でも取り組める土俵があるのが、トヨタの強みかもしれない。
【関連記事】 トヨタグループも頼りにする異能の変革集団