シリコンバレーVCの読む未来/米フェノックスのアニス・ウッザマンCEOに聞く

家庭用ロボット・IoT・AI・ヘルスITに注目、日本のVBは海外展開意識せよ

 世界を代表するハイテク企業や有力ベンチャーがひしめく米国シリコンバレー。ベンチャーキャピタル(VC)の米フェノックス・ベンチャーキャピタル(Fenox Venture Capital)はシリコンバレーのサンノゼを拠点としながら、米国だけでなくアジアや日本のベンチャー、スタートアップにも幅広く投資している。しかも、共同設立者兼CEOのアニス・ウッザマン氏は日本の大学で学位を取り、日本語も堪能かつ日本の状況にも詳しい。そんなウッザマン氏に、次の時代を担う技術や製品、さらには日本のベンチャーへのアドバイスなどについて聞いた。

「ペッパー」より有望な「ジーボ」


 ―どういうベンチャーやスタートアップに注目していますか。
 「マサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボ発で、家庭向けアシスタントロボットを開発するジーボ(Jibo)というベンチャーがある。製品名も『ジーボ』だが、世界のロボット業界でたぶんトップを走っている商品だと思う。2015年にフェノックスは、ジーボに対する1600万ドルのシリーズA(シード投資の後の資金調達)のラウンドでリード投資を行った。同じタイミングでKDDIなども同社に投資している」

 ―家庭向けサービスロボットはいろいろ出ています。日本でもソフトバンクの「ペッパー」が人気ですが、ジーボはどこが優れていますか。
 「ロボットについては技術面だけでなく、ビジネスとしても見ている。何が大事かというと一般の人が買えるかどうかということ。ジーボの価格は549ドル、つまり6万円くらいなので誰でも購入できる。これは驚きだ。(本体が税抜きで19万8000円の)ペッパーは高いので誰もが買えるわけではない。さらに重くて家にも持って行けない」

 「2番目に音声認識のツールを持っていること。個人の声を聞き分けるため、誰がしゃべっているかわかる。3人で話していても、誰がしゃべっているか理解するためロボットがそちらに振り向き、動きがまるで漫画のように見える。画像認識の機能もあり、顔を見て覚える機能や人工知能(AI)も含まれている。状況を認識しながら人間のようにどんどん成長していく。インターネットにつなげなくても単独で動け、クラウドファンディングの米インディーゴーゴーでも素晴らしい実績を上げた」

農業IoTで日本に参入


 ―統計によれば、米国のロボットベンチャーへの投資が急増しているようですが。
 「確かに投資が増えている。ロボット分野もIoT(モノのインターネット)が充実してきた。IoTが2020年に1.9兆ドルの市場になるという予測もある。IoTですべてのモノがインターネットに接続される。モノをつなげて周囲の情報を集め、クラウドにあげて、製品やサービスなどの改善につなげるのがIoTの基本コンセプト。ただ、そこで人間が何やっているか監視するものがない。それがロボットではないかと。ジーボが家の中のデータを収集することで、生活の利便性を向上させることができる。IoTの文脈でロボットの存在が大きくなっている。IoTのほかの分野でも、エディン(Edyn)という面白い会社がある」

 ―それはどんな会社ですか。
 「農業IoTを手がけ、日本に参入する準備にも入っている。センサーで温度や湿度を測定し、いつ水をかければいいかまで自動化できる。日本の企業からの問い合わせも多い。家庭用向けだが、本格的な農業向けにもこの技術が使われるようになるのではないか」

今後3-5年で日本に200億円投資


 ―注目が高い分野として、人工知能(AI)もありますが。
 「AIの中でもMITメディアラボ発のアフェクティバ(Affectiva)というベンチャーは、音声認識や画像認識ではなく、顔を見て人の感情を認識できる。すでにシリコンバレーの有力VCであるクライナー・パーキンス・コーフィールド・アンド・バイヤーズから約20億円を資金調達した。ユニリーバなど大企業と契約していて、世界規模で見ても感情分析ではナンバーワン。どう応用するかというと、まず制作中の映像を見ている人を撮影し、感情の盛り上げる部分をカットしてコマーシャル映像を作る。自動販売機などでのマーケティングにも使える」

 「それ以外に大きくなっているのが、ヘルスIT。スキャナドゥ(Scanadu)は自分で病気を診断できるサービスを提供し、米食品医薬品局(FDA)の承認を取得している。また、センスリーという会社が開発したスマートフォンアプリには『モリー』というバーチャル看護師が入っていて、血圧測定装置と連動して自動的に血圧を測り、病院の医師にデータを送信してくれる。日本の会社と提携しようとしていて、近い将来、日本でも使えるようになるだろう」

 ―日本で注目しているベンチャーもしくは分野は何ですか。
 「幅広い分野を見ていて、IoT、ヘルスケアIT、モバイル、クラウド、ビッグデータ、AI、フィンテック、拡張現実/仮想現実(AR/VR)、さらにロボットなどにも注目している。日本の大学発ベンチャーの技術にも関心がある。東京大学発ロボットベンチャーのシャフトは残念ながらグーグルに買収されてしまったが、そういった分野の技術も見ていきたい」

 ―日本で投資を拡大する計画を持っていますね。
 「今後3年から5年で日本に200億円投資すると今年の初めに決めた。2015年の投資額は24億円。2016年にはもう少しペースアップしていきたい」

 ―日本で世界的なスタートアップが育つには、どういったことが必要だと思いますか。
 「第一に、最初からグローバルに通用するソフトウエアや商品、ビジネスモデルを作っていかなければならない。投資を募る時にできるだけ、海外のVC、エンゼル投資家も入れて構成すると、それぞれがいろいろなコネクション持っているので役に立つ。フェノックスも全世界にシード(投資先)を持っている。こうしたグローバルコネクションが使えるようになる。日本の市場向けの製品だけでやるとビジネスにならない。高齢化が進む中で5000万人しか顧客がいない。最初からグローバルにやらないと見込みはない」

時代に合ったビジネスモデル重要に


 ―日本企業の起業家もシリコンバレーに出たりしていますが、海外で存在感を発揮できるでしょうか。
 「できます。日本から来ている方は頭がいいし、持っているプロダクトもいい。英語がもう少しうまくなれば、米国やグローバルレベルで活躍できる可能性はある。電動バイク・電動3輪で注目されるテラモーターズ社長の徳重徹さんはいい例だ。こちらも、彼のような起業家をこれからも頑張って見つけないといけないが」

 ―テラモーターズのように、ハードウエアやモノづくり関係のスタートアップは増えていくと思いますか。
 「ハードウエアなら何でもいいではなく、意味のあるものでないと。エディンもハードウエアだが、時代に合っている。テラモーターズもバイクや3輪車も(環境に優しく騒音も少ない)電動だからこそ、ニーズがある」

【略歴】
 Anis Uzzaman 東工大工学部開発システム工学科卒、米オクラホマ州立大工学部電気情報工学専攻修士課程修了、東京都立大(現首都大東京)工学部情報通信学科で博士取得。IBM、EDA(半導体開発用ソフトウェア)のケイデンスを経て、シリコンバレーにフェノックス・ベンチャーキャピタル設立。主に初期投資とファイナルラウンドを専門とし、全世界のインターネット、ソフトウエア開発、リテール関連を中心とした投資を行う。日本での著書に『スタートアップ・バイブル シリコンバレー流・ベンチャー企業のつくりかた』

2016年3月31日付日刊工業新聞別刷特集に掲載
Fenox Venture Capital

藤元 正

藤元 正
04月08日
この記事のファシリテーター

実は、この「日本を変える!ベンチャー道」のページ写真にもなっているシンガポールの「テックインアジア」もフェノックスの出資先。日本も含め、アジアのハイテクスタートアップを幅広くカバーするインターネットメディアだが、同社とのコラボレーションで、先行き有望なスタートアップをどれだけ発掘していくか興味深い。

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