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工作機械は中国減速見られず。自動車投資が下支え

小型車への減税が奏功。日系メーカーはスマホ特需から乗り換える
 中国経済の景気減速が鮮明になる中、現地の自動車産業の設備投資は堅調さを保っている。昨年秋に始まった小型車減税が新車販売に寄与している上、人件費の上昇や労働者の高い流動性を背景に、メーカーが効率性の高い生産設備の導入に前向きなためだ。日本が中国に販売する工作機械はスマートフォン向けの特需が消えた電気・精密向けは低迷するものの、自動車向けは底堅い。この分野をいかに攻略するかが、中国工作機械市場への浸透のカギとなりそうだ。

地場自動車メーカー、生産効率を追求


 中国の政府系自動車メーカーで広東省広州市を本拠にする広州汽車グループ。その中で自社ブランドの自動車製造を担う広州汽車集団乗用車のエンジン工場では、カムシャフトなどの部品加工から組み立てまでの一貫生産をする。今、その現場は続々と舞い込む受注をさばくのに手いっぱいだ。

 「シリンダーブロックとシリンダーヘッドのラインはフル稼働している」。唐新和エンジン本部長は工場の繁忙ぶりをこう説明する。11年に1万7000台だった同社の自動車販売台数は15年には19万台と右肩上がりで伸び続けた。必要なエンジン数も拡大の一途を辿り、その生産能力の増強が需要増のペースに追いつかないほど。効率を追求した生産体制の整備を急いでいる。

 例えば、ジェイテクトが15年秋に9台の研削盤を納入したクランクシャフトの生産ライン。ここに持ち込む加工対象物(ワーク)はロットごとに種類を切り替えるのではない。施す加工が異なるワークが1個ごとにランダムで来る。そこでワークの種類を判別し、その加工に合う研削盤に自動で送るローダーを組み込むとともに、個々の研削盤にもワークの判別機能を設ける二重チェックのシステムを構築した。重くてかさばるクランクシャフトを人間が運ぶ手間と加工ミスを避け、安全性と生産性を高めるためだ。

 広汽乗用車は同時期にシリンダーヘッドのラインでもジェイテクト製の立型マシニングセンター(MC)を13台追加した。それでも「まだエンジンが足りない。すぐにでも工作機械が欲しい」と唐本部長は新たな設備への飢餓感を募らせる。

エンジン5万台分、次々舞い込む受注


 16年の車両の販売目標を前年実績比で8割増の35万台に設定。かたやエンジンの生産能力は現状で年間30万台分にとどまる。不足分を埋めるため、同社は2月にもジェイテクトに立型MCを21台発注した。

 広汽乗用車が強気の姿勢を貫くのは、中国の自動車市場が景気減速をもろともせずに成長を続けているからだ。中国汽車工業協会のまとめによると、15年の中国での新車販売台数は前年比4・7%増の2470万台。15年10月に中国政府が始めた小型車への減税が奏功した。同協会はこの効果が続くとみて、16年の販売台数を同5・9%増の2604万台と予想。業界に吹く追い風が自動車メーカーを工場拡張へとかき立てる。

 だが、闇雲に機械を求めているのではない。唐本部長は機種選定の基準として「生産効率と省エネルギー、作業者の負荷を軽くする安全性」を挙げる。工場内に並ぶ工作機械は日本メーカー製が目立ち、ローダーなどを活用した自動化を随所に仕掛ける。そこには廉価な設備で初期費用を抑えようとする姿勢はうかがえない。

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日刊工業新聞2016年3月28日「深層断面」
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
これから世界各国でクルマの環境関連の規制が厳しくなります。中国においても同じです。そのための設備投資がまだまだ出てくるようです。トランスミッションの歯車部品は仕上げに高精度の研削をすることで燃費や乗り心地が高まるそうです。こういった繊細な加工はやはり日本、欧州の工作機械が優れています。加工にラインを丸ごと提供するようなエンジニアリングも含め、対応できないメーカーは淘汰されていくのではないでしょうか。 (日刊工業新聞社編集局第一産業部・六笠友和)

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