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トヨタグループの不文律が崩れた「3年目の官製春闘」

中堅・中小企業、非正規でこれまでの常識が変わり始める
トヨタグループの不文律が崩れた「3年目の官製春闘」

主要企業の回答が集計ボードに書き込まれていく(金属労協)


人手不足、底上げ春闘のバネに


 人手不足を背景に、労働者の4割を占める非正規労働者の待遇改善も前進した。連合の神津里季生会長が「底上げ春闘のバネになる」というように、トヨタ自動車が非正規社員の期間従業員の日給を1日150円引き上げ要求に満額回答した。ベースアップ(ベア)3000円に当たり、正社員の月額ベア1500円の2倍の数字だ。

 大手ベアリングメーカーのNTNも期間社員の日給を100円引き上げた。ベア・一時金とも満額回答を勝ち取った計測機メーカーのアズビルは時間給労働者の時間給10円の引き上げ要求にも満額回答。島津製作所、シチズン、NTN労組なども時間給引き上げを勝ち取り、島津は臨時社員・パート社員への半日年休制度と慶弔特別休暇制度の導入を決めた。

 正社員1600円のベアで決着したNTTグループは、7万人の非正規社員の内、月給制社員約1万人の月額賃金を1100円引き上げるほか、60歳を超えた月給制再雇用社員1万人も同額引き上げる。

 UAゼンセン傘下の家具製造販売大手のニトリ労組も正社員の賃上げのほか、非正規の時給28・7円の引き上げを勝ち取った。流通大手のイオンも約7万人の非正規社員の時給を39・9円引き上げる。全日本空輸(ANA)は時間給契約社員の時給を15円引き上げ、雇用延長・継続雇用社員の月給を600円引き上げるなど、幅広い業種で、基幹労働力化した非正規労働者の確保に腐心する。

焦点はこれから本番を迎える中小交渉


 今後の焦点はこれから本番を迎える中小交渉。「極めて象徴的なことだ」(神津連合会長)。「象徴的」とはトヨタグループ内の「トヨタの賃上げ額未満で決着する」という不文律を崩し、デンソーアイシン精機、豊田自動織機がトヨタのベア額と並ぶ月額1500円で妥結したことだった。トヨタと同額の回答を引き出したのは8年ぶりだ。

 一方、豊田鉄工(愛知県豊田市)や従業員1000人以下の中堅・中小でトヨタの回答額を超えるところが複数出た。

 神津連合会長は「中堅・中小は親会社の大企業より賃上げが低い、というこれまでの常識からどう転換するかだ」と訴え、公正取引問題を前面に中小・地場交渉に臨む。

 労働者の7割を占める中小労働者の賃上げは経済の好循環には欠かせない。しかし、現実は厳しい。円安で原材料費が上昇しているにもかかわらず、取引先の大企業の値下げ要求で価格に転嫁できないケースも多いからだ。安倍晋三政権の経済政策「アベノミクス」は正念場を迎える。
(文=八木沢徹)
日刊工業新聞2016年3月17日/18日
神崎明子
神崎明子 Kanzaki Akiko 東京支社 編集委員
 日本総研の山田久チーフエコノミストは2016年春闘を「民間主導の自律回復力を高めていくことが本気で問われる1年」と位置づけています。主要企業の賃上げ率の「2%台維持は最低ライン」としたうえで「ベースアップ・賃金改善は小幅でも前年を上回る結果が望ましい」と指摘しています。その点では、一定の評価ができるのでしょうか。  中小企業に関してこの2年あまり、懸念されるのが人手不足が深刻化するなか賃金を含めた処遇改善で人材をつなぎとめなければならない実情です。収益状況や取引環境が一向に改善しないなか、賃上げ圧力ばかりが強まることが逆に経営基盤を脅かさないかと心配です。

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