グーグル囲碁AI「4勝1敗」は人類の敗北か。プロ棋士から見た勝負の評価

「50代は逃げ切れる。20代は柔軟に動ける。僕たち30-40代はどつぼにはまっている」


アルファ碁は宇宙を開拓するパートナー?


 囲碁は打ち手が天文学的な数になり、宇宙に喩えられる。アルファ碁は10万(10の5乗)以上の棋譜を学習したが、存在し得る打ち手は10の360乗とされる。そのほとんどが意味のない手だが、AIの学習できる範囲も極めてわずかだ。

 松原教授は「人間の棋士が打ってきた範囲を太陽系に例えると、宇宙には別の恒星系や筋の良い星があるはず。アルファ碁の創造した新手は、太陽系を飛び出して新しい星を見つけたようなもの。太陽系とその近傍は制したが、宇宙のすべてを把握したわけではない」と説明する。今後、アルファ碁の打ち筋を基に新しい定石が開拓されるだろう。アルファ碁は宇宙を開拓するパートナーになるかもしれない。

研究をリードしてきた日本に衝撃


 AI研究者にとってもアルファ碁の大勝は衝撃だった。囲碁AIは日本が研究をリードしてきたが、アマチュアレベルに留まっていた。彗星のごとく表れたグーグルに追い抜かれた形だ。今後、囲碁AIの研究は強さの追求でなく、AIによる指導や接待など、別の機能を模索することになる。

 また他のゲームに研究の場を移すことになりそうだ。コンピューター囲碁の国際大会を主催する電気通信大学の伊藤毅志助教は「麻雀のような手の読み合いが必要な不完全情報ゲームや、偶然の要素が入った不確定ゲームなど研究分野はまだまだある」という。

 ただ松原教授は「世界統一のルールがあり、プロのいる競技は限られる。ゲームAIの分野は囲碁を失い、しばらくテーマを模索することになる。具体的な社会課題やビジネスなど社会実装よりの研究が増えるだろう」と予想する。
(文=小寺貴之)

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日刊工業新聞 記者

日刊工業新聞 記者
03月16日
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囲碁の面白さや思考力を養う効果は変わりません。その上で今回の囲碁AIは技術革新失業の参考になります。これまで急にAIが人間を超える知的活動はあまりありませんでした。人間の計算職は、そろばん→機械式計算器→電子計算機→電卓→表計算ソフトと段階的に移行してきました。職業は変えずに仕事の中身を入れ替える時間がありました。従来の囲碁AIはアマチュアレベルで、プロ棋士といい関係を築いてきました。急に世界最強の人間が負けるとアイデンティティが揺らぎます。取材した棋士の「50代は逃げ切れる。20代は柔軟に動ける。僕たち30-40代はどつぼにはまっている」という声が耳から離れません。対局の面白さや指導力は、強さや憧れの上にあるものです。デザイナーやライターにとっても目の前に迫っていることだと思います。囲碁界はAIをどう飼い慣らしていくのか注目です。(日刊工業新聞社編集局科学技術部・小寺貴之)

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