ニュースイッチ

「一生に一度」五輪ビジネス獲得へ!中小企業向け受発注情報サイト始動

 東京都や東京商工会議所、東京都中小企業団体中央会などで構成する「中小企業世界発信プロジェクト推進協議会」は、2020年東京五輪・パラリンピック大会の開催効果を中小企業のビジネスチャンスへと波及させる「中小企業世界発信プロジェクト2020」をスタートした。大会関連の官民の発注・調達情報を集約した情報ポータルサイト「ビジネスチャンス・ナビ2020」のユーザー登録も12日に始まり、4月に稼働する。日本全国から同プロジェクトに寄せる産業活性化の期待は大きい。

一般の中小企業参加しやすく


 「ビジネスチャンス・ナビ2020」の手本は、12年英国・ロンドン五輪大会時に構築され、現在も稼働中の契約案件情報検索ウェブサイト「Compete For(コンピート・フォー)」だ。ロンドン大会では大会に関連した施設建設工事や大会グッズなどの物品、大会を盛り上げるイベント開催など、事業の約25%を受注した大企業やその関連会社以外に仕事を渡し、一般の中小企業が事業に参加しやすくした。東京都や国、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会、大手民間企業といった発注側が「ビジネスチャンス・ナビ2020」で発注情報を提供し、ユーザー登録した中小企業と個別商談して契約が成立する流れにする。

3分の2が地方


 コンピート・フォー経由の実績をみると、17万社以上の事業者が登録し、契約成立の3分の2はロンドン市以外の英国企業が受注した。合計契約額は約26億ポンド(日本円換算で約5000億円)、雇用創出は約5000人、契約獲得した企業の平均的な売上高の増加分は20万ポンド(約3800万円)に上る。そのため、日本版「コンピート・フォー」である「ビジネスチャンス・ナビ2020」にも、それと同等かそれ以上の実績が期待されている。

《キックオフイベント―受発注各社、思い語る》


 12日のキックオフイベントでは「2020年のビジネスチャンスに向けた新製品・新サービスの開発」と題したパネル討論会も開かれた。パネリストにはプロジェクトの事務局を務める東京都中小企業振興公社のほか、発注側の大企業代表として1988年から五輪ワールドワイドスポンサーを務めるパナソニックの北尾一朗東京オリンピック・パラリンピック推進本部副本部長が登壇。受注契約を狙う中小企業の代表として日本電鍍工業(さいたま市北区)の伊藤麻美社長、龍角散(東京都千代田区)の藤井隆太社長が参加し、大会に向けた思いを語った。

■パナソニック/最新技術でおもてなし
 パナソニックの北尾副本部長は、20年大会に向けて東京が抱える課題にどう取り組んでいるのかについて、例えばスマートコミュニケーション分野では光ID多言語サイネージや自動翻訳機「メガホンヤク」を投入して言語の壁を取り除くといった『5スマート』の項目を掲げながら紹介した。「パナソニックの最新テクノロジーで最高のおもてなしを実現させる。2020年東京大会はオリンピックパークのない大会なので広域移動、セキュリティーといった分野で商機はある。ぜひ、皆さんとともに日本のお役に立ちたい」と、連携を呼びかけた。

■日本電鍍/入賞メダルのメッキで光る
 日本電鍍工業の伊藤社長は「大会で授与する金、銀、銅のメダルへのメッキを狙っている」と明かす。「小さくても光る企業であるために、人づくりに力を入れ、社員がワクワクときめくようなことにチャレンジし、企業価値を高めることにつなげたい」と語る。

■龍角散/時間かけて商品を定着
 現在、一般医薬品の販売が中国人旅行客向けに好調に伸びており、「龍角散」はその筆頭だ。中国内の空港ロビーに看板を掛け、中国や米国などでもテレビCMを流したり、日本を訪れた中国人旅行客が日本のお土産として頼まれた一般医薬品を間違えずに買ってもらうよう中国でポスターやチラシを大々的に展開するなど、長い時間をかけて業界を挙げて取り組んだ結果だ。藤井社長は最近力を入れている介護現場などでの、薬をゼリーに包んで飲みやすくする『らくらく服薬ゼリー』について「35カ国で特許をとった。安全に薬を飲んでいただきたい。異文化に融合する覚悟が必要。じっくり時間をかけて商品を定着させていく」と語った。

■アツデン/国産マイク拡販に期待
 12日のキックオフイベントに参加した中小企業各社が「ビジネスチャンス・ナビ2020」に寄せる期待度は高い。ビデオカメラ用マイクロホン専業メーカーのアツデン(東京都三鷹市)の佐藤文典会長(三鷹商工会会長)は「メード・イン・ジャパンにこだわって製品づくりをしている。せっかくのチャンスなのでマイクロホンの販売拡大につなげたい」サービスと期待を寄せる。

■オレンジアーチ/マッチングサービス提供
 また、ITインフラ構築などシステム開発に強みを持つオレンジアーチ(東京都足立区)の本山功社長は「これまで、五輪イベントはほぼ大手の仕事という感じがしていたが、今回の説明で本当に中小企業にも間口を広げていただけると思えた。一生に一度しかないことに関われるのなら、社員のモチベーション向上にもつながる。全国から都心に集まってくる人たち向けのマッチングサービスをネットを通して提供したい」と意欲を語る。

【東商・三村会頭「夢・希望と経済効果、国民の一体感醸成」】


 主催者側として登壇した東京商工会議所の三村明夫会頭は「活力を取り戻すことが重要で、夢と希望と経済的な好影響をもたらし、国民全体の大会として一体感を生むことを期待している」と語り、東商の強みであるネットワーク力を最大限に活用して中小企業を支援すると表明した。20年東京五輪を契機とした産業活性化の起爆剤、その真打ちであるポータルサイトの登場で、いよいよ東京も、地方も商機獲得に向け一気に動き始める。
(文=大塚久美)

「ビジネスチャンス・ナビ2020」のHP
https://www.sekai2020.jp/bcn2020.html
日刊工業新聞2016年2月22日 中小・ベンチャー・中小政策面
斉藤陽一
斉藤陽一 Saito Yoichi 編集局第一産業部 デスク
記事にもある通り「ビジネスチャンス・ナビ2020」のHPではすでにユーザー登録が始まっています。試しに申請書をダウンロードしてみたところ、入力項目は意外に少なく、各企業が自社のHPに掲載している会社概要の情報を転載すればほぼ埋まる内容。こういう登録制度は「入り口」の申請が複雑だったり面倒くさかったりして、中小企業が敬遠するケースも多いですが、これなら大丈夫かなと少し安心しました。

編集部のおすすめ