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ノウハウより、「ノウホワイ」―現場改善で大切な思考を5つのステップで学ぶ!

新郷さんに学ぶ 生産現場改善の手法  第2回 新郷さんの現場改善への思考( 『工場管理』2023年4月号 特別企画より抜粋)
 10分以内で段取りを行う「シングル段取り」、ヒューマンエラーを未然に防ぐ仕組み「ポカヨケ」。生産現場の改善で用いられるおなじみの手法だ。これらの手法を築いたのは、新郷重夫氏。戦後、コンサルタントとして多くの製造業の現場改善に取り組み、トヨタ生産方式の源流を形作ったともいわれる人物である。画期的な改善手法が生まれた背景には、現場の事実を正しく捉えて、真の問題を探求する粘り強さと熱意があった。
 月刊誌『工場管理』4月号特別企画「“カイゼンの職人”新郷重夫に学ぶ 改善の原点的思考」への寄稿「IEを現場のものにし、卓越した改善の功績を残す『新郷重夫』を知る~その思いと思考、改善の手法を紐解く~」(日本能率協会コンサルティング・石田秀夫著)を一部編集の上、4回にわたって紹介する。新郷氏の功績を振り返り、現場改善に向き合う姿勢や思いに迫る。

第2回は、経歴・功績を生んだ思考や技術、そして手法について述べていく。以下は新郷さんが語っていた現場改善で大切な思考を現場改善のステップに沿って挙げていく。
 あとにも述べるが、各ステップでの思考を深く行うことで、シングル段取りやポカヨケなどの着想が出てきたのではないかと想定する。

思考1:事実を見る(現状把握ステップ)

現場の問題を見る場合、当たり前であるが事実を見るということが大切である。この事実とは、そのものズバリの「実物の事象を見る」ということと、「数値・データで見る」という観点がある。
 特に作業などの事象は、時間が経つと事実が推測に変わってしまう。現代的には動画があると事実確認をしやすいが、動画に反映されていないものは、推測に変わりやすい。
 たとえば、作業観察後、片手がねじ締め作業時にもう一方の手でボルトの頭出しをしていたか?など、十分に記憶できていない部分については、していた「ハズ」になるのである。改めて、現場での事実確認が重要で、事実からのみ正しい対策ができるのである。また、事実を見ると問題や対策の仮説も立てやすくなるものである。
 あなたは、「ハズ」と「大体」ではなく、問題の対象の「現場の事実」と「数値」を掴んでいるだろうか?

思考2:区分してものごとを見る(現状把握:問題点の絞り込み)

まず、現場の見方や考え方であるが、新郷さんは現場の事実を科学することが大切だと説いている。科学とは、論理化・数値化を一般的に示すが、新郷さんの論としては、それらに加えて、科学の「科」という字に分けるという意味があるとのこと。「事実を捉えて、分けて考えることが重要で、分けることにより、問題を単純化して解決しやすくする」と理解できる。考えてみると、世の中の事象は分けられるものが多い。その中でも分け方は、対立的分類と連続的(階級的)分類に大別できると新郷さんは説いている。

【対立的分類】
 「A」と「Aでないもの」というように、男と女などである。
 工場内の事象で見てみると、設備Aと設備B、作業者Cと作業者D、条件Eと条件Fで生産した場合の差を見てみるなどである。そう区分けすると、効率の悪い部分や品質の悪い部分などの問題が見えてくるのである。

【連続的(階級的)分類】
 温度や圧力、時間というような数値や状態の連続的なものをある区分で仕分けてみることである。温度が高い時と低い時、作業従事年数の短い人と長い人、仮付け作業と本締付作業などである。これも、差などに着眼して見てみると、生産性や品質などの問題点が浮き彫りになりやすいということである。

思考3:ノウハウ(Know How)より、ノウホワイ(Know Why)(要因解析ステップ)

現場で飛び交う言葉として、「ノウハウを身につけよう」などがあるが、実はもっと大切なものがあると新郷さんは説いている。ノウハウの前の“ノウホワイ”である。それがわかり、その思考でものごとを見るようになると、問題の本質がわかるようになり、問題解決も改善も進みやすく、組織的には「考えられる人」を増やし強い組織になるのである。当たり前のことも含め、なぜと疑う・考えることは組織として重要なことである。
 以下に新郷さんが記述された内容をリアルに転載する。

 世の中には、「新しい方法を採用しようと思うならば“ノウ・ハウ(KnowHow):どうする”を習得する必要がある」と、信じられている。しかし本当に、その方法を自分のものにしよう。と考えるならば、「ノウ・ハウだけではダメであって、“ノウ・ホワイ(KnowWhy):なぜ”を掴まなければならない」といわれている。
 “ノウ・ハウ”だけでは「このようにすればよい!」ということはわかるけれども、「トラブルを起こしたり、チョット条件が変った場合に、どうしてよいかわからない」ことになってしまう。しかし、「ノウホワイ、すなわち“ナゼ”そうしなければならなかったのか?」ということを理解しておれば、そのような変化に対して対応することができるというのである。
(『トヨタ生産方式のIE 的考察~ノン・ストック生産への展開~』新郷重夫著 日刊工業新聞社より)

現在で言えば、「手の内化」にもつながる大切な思考である。

思考4:生産の5要素への「なぜ」を考える(要因解析ステップ)

ここで言う生産の5要素とは、以下の要素である。5要素各々について、目的にさかのぼり「なぜ」を考えることが重要である。具体的には、
①生産対象:つくられる製品
②生産主体:つくるための人、工具、機械など
③方法:どんなやり方をするか
④空間:どこに置くか、どこに運搬するか
⑤時間:時の長さと、タイミング
ということであるが、これは、いわゆる5W1H に相当するものである。
①What:何を…生産対象
②Who:誰が…生産主体
③How:いかにして…方法
④Where:どこへ…空間
⑤When:いつ…時間
に対応するものであり、上記の①~⑤に対して、「なぜ」を考えるのである。

なぜ「目的」を追求する(出所:『工場改善の体系的思考~改善のためのST メカニズム~』P123 新郷重夫著 日刊工業新聞社)

▶Why:なぜ…目的の追求
 もっと、わかりやすい言葉で考えていく。
①なぜ:こんなものをつくるのか?
②なぜ:誰がやるのか、この機械を使うのか?
③なぜ:こんなやり方をするのか?
④なぜ:ここに置くのか、なぜ、運ぶのか?
⑤なぜ:こんな時聞がかかるのか、なぜ、こんなタイミングでするのか?
というように5つの要素についての“目的の追求”を行うことである。それにより、本当に必要な要素や問題の要因が見え、改善策に結びつく。
 ちなみに、深掘りをする「なぜ5回」とは異なり、「生産の5要素のなぜ」は、網羅的でなぜを行う観点と理解願いたい。その観点ごとに「なぜ5回」があるはずである。
 上記のなぜ?では、特に①のなぜを最初に置く必要があり、VE的な改善で、たとえばボルト締結が溶接に変わってしまうと工程や作業改善の対象からズレてしまうからである。

思考5:対策(達成手段)は万策ある(対策立案ステップ)

「その改善の目的は1つでも、それを達成するための手段はいくつもある」とよく話されており、その中から「最も適当なものを選択する必要がある」ことが重要だと説いている。
 一方で、ある目的に対する策が日々進歩する発想が大切だとも説いており、これで十分だと思った時点で改善が進まなくなると言っている。『工場改善の体系的思考~改善のためのST メカニズム~』(新郷重夫著)の一文から転載すると、以下である。

 われわれは「昨日と同じことをやっていたのでは、進歩はない」わけである。 ところが“改善をする”ということは、「現在、やっていることを変革すること」であるから、変革に対する抵抗感があるのは当然である。とくに“現在、とりたてて問題がない”とした場合は、無意識的にも「これで、よいではないか」とか、「これが、一番良い方法だ」とか、信じこんでしまい「現状を変えよう」とはなかなか考えないものである。
 ところが、世の中というものは、日進月歩していくべきものであり、その意味においては、「昨日と同じことをやっていたのでは“1日、進歩に遅れた”」ということになる。したがって「現在、一応“問題はない”と思っている仕事に対しても、“もっと良いやり方はないだろうか?”」というように、積極的に問題意識を持つようにしないと、なかなか改善はできないものである。

と、問題意識がないと策を考えなくなること、逆に言えば、常にこれでよいだろうか?と疑いの気持ちを持つことにより、策を考える意識が芽生えると考える。

筆者:石田 秀夫
株式会社日本能率協会コンサルティング
取締役 生産コンサルティング事業本部 本部長 シニアコンサルタント
URL:https://www.jmac.co.jp/

(『工場管理』2023年4月号 特別企画「“カイゼンの職人”新郷重夫に学ぶ 改善の原点的思考」解説より抜粋)

雑誌・書籍紹介

書名:『工場管理』2023年4月号
 税込み価格:1,540円
 <販売サイト>
 Amazon 
 Rakuten ブックス 
 日刊工業新聞ブックストア 

書名:復刻版 トヨタ生産方式のIE的考察 ノン・ストック生産への展開
 著者名:新郷重夫
 判型:A5判
 総頁数:368頁
 税込み価格:3,850円
 <販売サイト>
 Amazon 
 Rakuten ブックス 
 日刊工業新聞ブックストア 
 <目次>
 <第1部>工場改善の原点的志向
 第1章 生産の構造
 第2章 工程の改善
 第3章 作業の改善
 第4章 ノン・ストック生産への展開
 <第2部>トヨタ生産方式のIE的考察
 第1章 トヨタ生産方式の理解
 第2章 トヨタ生産方式の構成
 第3章 トヨタ生産方式のIE的構成
 第4章 カンバン制度の展開
 第5章 トヨタ生産方式の周辺
 第6章 トヨタ生産方式の進路
 第7章 トヨタ生産方式の導入と展開
 第8章 トヨタ生産方式の総括

書名:現場力が高まるひらめき 新郷重夫語録
 著者名:新郷重夫
 判型:四六判
 総頁数:192頁
 税込み価格:1,980円
 <販売サイト>
 Amazon
 Rakuten ブックス 
 日刊工業新聞ブックストア
 <目次>
 第1章 改善を始めるために
 第2章 改善するべき問題を見つけよう
 第3章 なぜ改善するのか、その目的を理解しよう
 第4章 改善案を作ってみよう
 第5章 改善を実現していこう

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新郷さんに学ぶ 生産現場改善の手法
新郷さんに学ぶ 生産現場改善の手法
10分以内で段取りを行う「シングル段取り」、ヒューマンエラーを未然に防ぐ仕組み「ポカヨケ」。生産現場の改善で用いられるおなじみの手法だ。これらの手法を築いたのは、新郷重夫氏。戦後、コンサルタントとして多くの製造業の現場改善に取り組み、トヨタ生産方式の源流を形作ったともいわれる人物である。画期的な改善手法が生まれた背景には、現場の事実を正しく捉えて、真の問題を探求する粘り強さと熱意があった。
 月刊誌『工場管理』4月号特別企画「“カイゼンの職人”新郷重夫に学ぶ 改善の原点的思考」への寄稿「IEを現場のものにし、卓越した改善の功績を残す『新郷重夫』を知る~その思いと思考、改善の手法を紐解く~」(日本能率協会コンサルティング・石田秀夫著)を一部編集の上、4回にわたって紹介する。新郷氏の功績を振り返り、現場改善に向き合う姿勢や思いに迫る。

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